ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第23話

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ユークリッター追跡

「ユークリッター……このアプリって、追跡機能まで付いてるのか?」

 今や日本を代表する、巨大IT企業にまで成長した、ユー・クリエイター・ドットコム。
通称ユークリッドが総力を上げて開発したアプリ、ユークリッター。
ボクのスマホにも入ってはいたが、その機能のほとんどを理解していなかった。

「そんなモノが付いていたら、流石に政府の許可が降りないでしょうが」
 腰に手を当て、怒っているストレートロングの黒髪少女。

「だったらどうやって、タリアを探すんだ?」
 呆れ顔を向けるユミアに、ボクは少しムッとしながら返した。

「このアプリはね。ユーザーが、話題になるワードを投稿して、より多く寄せられたワードが中心の惑星系となって、グラフィカルなかたちで表示されるのよ」

「その辺はなんとなくわかるよ。例えばユミアってワードが人気を集めていたら、それが恒星として表示され、ユミアに関連するワードが惑星として表示されるんだろ?」

「ま、まあ、そんなところよ。だから、タリアと袴田 凶輔(はかまだ きょうすけ)の両方が入っているワードを辿って行けば……」

 ユミアが、2人に関するワードを次々にタップして行く。
タップされたワードは新たな恒星となり、関連するワードが惑星として次々に表示される仕組みだ。

「地下鉄を降りたあと、他の路線に乗り換えているわね」
「どうして、わかるんだ?」
「その路線で見かけたって情報が、上がってんのよ」

「『タリア見かけた』……噂の男と、前の席に座ってる。フード被ってるケド、まず間違いない。なるホド。そのワードの詳細が、下に表示されるワケか」

「先生ったら、本気でSNS音痴なんだから。他のSNSだって、こんなの常識よ」
 ユミアが指摘した通り、どうもボクは階層状に連なる文章が苦手なのかも知れない。

「わたし達も、行きましょう」
「そうは言っても、午後から授業があるんだが」
「先生の授業って、英語と歴史の次でしょ。かなり時間があるわ」

「つまりキミは、マーク先生と、枝形先生の授業には出ないんだな」
「それまでに戻れたら、ちゃんと出るわよ」
 そう言うとユミアは、艶やかな黒髪を靡(なび)かせて走り出した。

「ヤレヤレ。ウチの生徒は言い出したら、後戻りの選択肢は無いんだな」
 慌てて後を追う、ボク。

 地下駐車場と地下鉄の駅を結ぶ通路に入り、スマホをかざし改札を抜けて地下鉄に乗り込んだ。
朝のラッシュ時とは異なり、車内は人もまばらとなっている。

「まずはターミナル駅に行って、そこから別路線に乗り換えるわ」
「その先は、どうするんだ?」
「降りた駅を、当てないとね。待ってて」

 ユミアがスマホを操作している間、ボクも推理を廻らせてみた。
2人がターミナル駅で降りて、乗り換えた路線はタリアの家方向とは異なっている。
つまり2人は、どこか別の場所に向かっているハズだ。

「郊外に向ってるのはわかったケド、まだ降り立って情報は上ってないわね」
「そうか。SNSと言えど、人のウワサ話が頼りとなると、追跡の制度も落ちるな」

「あッ、見つけた。この動画を、見て」
 ユークリッターには、動画をアップさせられる能力も備わっている。
ユミアのスマホには、地下鉄の席に座っていた2人が、ある駅で降りる姿が映し出されていた。

「これは、完全に盗撮なのでは?」
「そんなコトより、駅が特定できたのは大きいわ」
「ああ。この駅の周辺って、なにがあるんだ?」

「今、調べるわ。えっと……和菓子の店に、有名な鮮魚店、それにタピオカ屋……どれも、2人が行きそうな場所じゃないわね」

 写真を立体化した地図を表示する、ユミアのスマホ。
地下鉄の中に居ながらにして、現地の状況が確認できるのだ。

「そろそろ、ターミナル駅だ。乗り換えないと」
「そ、そうね」
「ン、ちょっと待ってくれ。今、表示されたのって……」

「な、なによ、先生。この古びた建物のコト?」
 ユミアの華奢な指が指したのは、小さな体育館のような建物だった。

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