ラノベブログDA王

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王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第8章・EP002

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思わぬ来訪者

「だか……ボク……は……」
 言葉を、必死に発しようとするボクの口。
けれども出てくるのは、隣の部屋のオリビさんには到底聞えない小さなうめき声だった。

 クソ、肝心なときにいつもこうだ。
他の人だったら、意識すらせずに簡単にできる『話す』と言う行為。
でもボクにとっては、とてつもない労力を要する作業なのだ。

 悔しい思いを抱えたまま立ちくしていると、突然アパートのドアベルが鳴った。

「ん、誰だ。電気代か水道代か?」
 隣の部屋から、オリビさんが出て来て玄関に向かっていく。

「うわッ、まさか貴方は……!」
 クールなオリビさんにしては、大きな声が聞こえた。

 だ、誰かな?
アルマさんって人だったら優しそうでイイけど、あの恐そうなオーナーだったらどうしよう。
ボクがガラス戸に隠れて怯えていると、オリビさんが誰かを連れて戻って来た。

「よッ、一馬。元気だったか?」
「く、倉崎さんッ!?」
 思わず、大きな声げ出てしまうボク。

「ど、どど、どうして、っこに?」
 知らない人と話しているという気持ちが抜けると、けっこう言葉が出てくる。

「ケガも治ったし、今日の午後にチームに合流する予定でな。次の試合は茨木でのアウェー戦だから、途中の静岡に寄ったんだ」

 デッドエンド・ボーイズのオーナーではあると同時に、Zeリーグ1部に所属する名古屋リヴァイアサンズの選手でもある、倉崎さん。
死神こと美堂 政宗との激突で負ったケガも癒えて、チームに合流するんだ。

「キミも、驚いたようだね。まさか本物のスーパースターに合えるなんて、驚きだよ」
「そう言われと嬉しいが、ケガで離脱させられてしまっていたからな。このままでは新人王の座すら、美堂のヤツに持って行かれそうな勢いだ」

 美堂 政宗……フットサル大会で対戦したとき、ボコボコにされた相手だ。
ボクやデッドエンド・ボーイズのメンバーの多くと同じ、高校1年生にも関わらず、すでに戦う舞台を国内のトップリーグに移して大暴れしている。

「確かに美堂も凄いが、貴方が居たときの名古屋は強かった。今はチームの中核を失って、中々勝ち星を拾えないでいるからね」
「責任は、感じているよ。まあ、今日はそのコトを話しに来たんじゃない」

「おっと、そうだったね。キミは、一馬を引き取りに来たんだろ?」
 オリビさんは、ボクの前に座った倉崎さんにもペットボトルのお茶を差し出した。

「イヤ。一馬はしばらくの間、静岡に居て貰うコトにした」

 ……え?
 倉崎さんの言葉を聞いても、大して驚かないボク。
少し、ホッとした気持ちすらあった。

「ロランのヤツがなんと言ったかは知らないが、これ以上キミたちに迷惑をかけるワケには……」
「イヤ、これはオレたちが、決めたコトなんだ。少なくともロランは今、デッドエンド・ボーイズの1員だ。チームメイトが困っていたら、協力するのはとうぜんだろう?」

「だからって同意も無しに、彼をロランの代役にし続けるワケにも行かないだろう?」
「どうだ、一馬。お前、このまま名古屋に帰るか?」
 なんだか試すように、ボクの反応を見る倉崎さん。

 そんなコト言われるまでもなく、心の決まっていたボクは大きく首を横に振る。

「ならば決まりだ。オリビは、パソコンを使えたりしないか?」
「あ、ああ。人並みには使えるが……」

「ウチにもパソコンを使える、雪峰ったヤツが居てな。オレはしばらく、名古屋リヴァイアスと行動しなきゃ行けなくなる。調査の進捗は、彼とコンタクトを取ってくれ」

「わかった。こっちも、彼のサポートを全力で、させて貰うよ」
 一端部屋を出て行ったオリビさんは、隣の部屋からノートパソコンを持って帰って来た。
倉崎さんからアドレスを聞いたオリビさんは、パソコンのキーを打鍵し始める。

 ボクが、温め直されたてりやき弁当を食べていると、パソコンの画面に雪峰さんが映った。

「どうだ、雪峰。その後、なにか進捗はあったか?」
「ロランさんの姉の同僚である、元アイドルの何人かの所在地は、突き止めました。ただロランさんに伝えるのは、まだ控えてます」

「彼が、雪峰くんか。懸命な判断だよ。ロランに伝えたら、また暴走しかねない」
「はい。オレたちもまだ学校の授業中ですので、同行できる放課後に直接伝えに行く予定です」

「しっかりしてるな、彼は。ロランとどちらが年上だか、わからなくなるよ」
 オリビさんは、深いため息を付いた。


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