ウィピルを着た3人姉妹
「キミらが、ドス・サントスの3人の娘か?」
振り返ったボクらの前に、3人の女性が立っていた。
背格好や顔立ちからして、セノンたちとそんなに変わらない世代だろう。
「そうだよ。アタシは、長女のショチケ・サントス。オヤジが新たな自分を生み出すまでは、暫定的にアタシがトラロック・ヌアルピリのトップだね」
茶色とピンク色の髪を編み込んだ、長髪の少女が言った。
ショチケは父親とは違い、ダークブラウンの肌に紫色の瞳をしている。
ピンクや緑色の鳥の羽を、花弁のようにたくさん挿したベージュ色の民族衣装を着ていた。
「新たな自分……どう言うコトだ。ドス・サントスは、ゼーレシオンのフラガラッハで前後に真っ二つに裂かれて、死んだハズだが?」
「アンタが、オヤジを殺したのかい。アタシは次女の、マクイ・サントス」
黒髪を編み込んだ長いポニーテールに、アクセサリーを散りばめた、マクイ。
「オヤジは暗殺を恐れて、いくつもの身体を持ってやがるのさ」
チョコレート色の瞳に、黄色人種の肌をしていた。
黄色と緑の鮮やな鳥の羽を挿した、ベージュ色の民族衣装を着ている。
「臆病者(チキン)なヤロウの、考えそうなコトだぜ。娘も、ガキばかりだしよ」
プリズナーが、毒舌を披露した。
「コイツ、誰だい。ムカつくね。アタイは、三女のチピリ・サントス」
金髪(ブロンド)の長髪を、左右に垂らして編み込んだ少女が、白とピンクの可愛らしい羽を挿したベージュ色の民族衣装から、ナイフを取り出す。
「姉貴たちと違って、オヤジを殺されて我慢なんてする気は無いよ。アタイは、手が速いんだ!」
チピリは両手でナイフを握り、ボクに向かって突き立てた。
「ヤレヤレ、父親の元に送ってあげようか」
ドス・サントスの末娘の攻撃を、小さく身体を動かしてかわすと、右手だけ握って跳ね上げる。
落ちて来たナイフを拾って、チピリの首の動脈辺りに赤い切れ目を入れた。
「ヒィツ!?」
悲鳴をあげた少女の下に、小さな水溜りができる。
「ま、待ってくれ。アタイらは、オヤジと違って復活はできないんだ」
「そのコの不始末は、謝るよ。妹を、放してやってくれないか」
ショチケとマクイは、意外にも妹の命乞いをした。
「まあいいさ。大体、自分たちも暗殺される恐れがあるって言うのに、どうしてボクたちの前に姿を現したんだ?」
失禁した少女を姉たちの元へ投げつけると、2人は包み込むようにチピリを抱き留める。
「アンタと、交渉がしたかったからさ」
「オヤジじゃ、話にならないからねェ」
「確かに、ドス・サントスじゃ話にならなかったが、キミたちなら交渉相手になるのか?」
ボクは、木綿のウィピルを着た3人の少女に、問いかけた。
「地球に住む古い世代の老人たちは、こんな地球でも現状維持を望んでいるんだ」
「そんなのって、問題の先送り以外のなにものでも無いだろ」
「アタイらは、それを変えたいと思ってんだ」
ショッピングモールのような吹き抜けの空間には、大勢の人たちがそれぞれの目的で歩いている。
その多くは老人ではあったが、若い世代もかなり見受けられた。
「ドス・サントスの娘にしちゃあ、出来たヤツらじゃねぇか。なあ?」
「プリズナー……キミと利害が、一致しているだけだろう」
「まあまあ、宇宙斗艦長。交渉相手としては、彼女たちの方が相応しいのは、事実でしょう?」
若草色のコートの男が、裏のある細い目を向ける。
「だけどドス・サントスは、いずれ復活するのだろう?」
「復活には、どれくらいの時間がかかる?」
プリズナーが、ボクの質問を奪い取った。
「第1の太陽のとき、父ドス・サントスは、黒のテスカトリポカとなって覇を唱えた。人々は巨人となって戦い、大地に血が満ち屍が転がった」
ショチケが、まっすぐにボクを見ながら告げる。
「なにを……言っているんだ?」
けれどもボクには、皆目(かいもく)理解できなかった。
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