ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第08章・02話

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ドス・サントス

 黒く淀んだ太平洋を横断したアフォロ・ヴェーナーは、かつてアメリカと呼ばれた国の、かつてジョージア州と呼ばれた地域に辿り着く。

「ボクの時代だったら、パナマ運河まで迂回しない限り、太平洋側から辿り着けるハズが無い州だな。そこまで水嵩(みずかさ)が増してるのか?」
 浮上したアフォロ・ヴェーナーは、巨大なドックに収まっていた。

 科学物質や放射能がまん延した海を潜航してきた巨大イルカは、除染のためのシャワーを気持ちよさそうに浴びている。
ゼーレシオンでイルカの外に出たボクは、周囲の様子を確認する。

「そうね。今の北アメリカ大陸は、温暖化による海面上昇と、中国やロシアからの核ミサイルによる飽和攻撃によって、1000年前とは地形がかなり変化してしまっているわ」
 ゼーレシオンの高感度アンテナである触角が、トゥランの声を拾った。

「天井は、岩石そのままだな。固い岩盤をくり抜いて、海から侵入できるドックを建設したのか」
「ここは昔の、アパラチア高原だぜ。ブルーリッジ山脈も近い、標高の高い場所でな。カンブリア紀時代の古い岩で出来てるから、水没を免れているんだ」

 アッシュブロンドの男が乗る、髑髏(ドクロ)の頭のサブスタンサーが告げる。

「プリズナーは、この辺りの出身なのか?」
「イイヤ、オレの出身地も今や海の底だぜ」

 バル・クォーダがゼーレシオンを追い抜いて、巨大なクリーンルームに入って行く。
交渉に赴くのは、ボクとプリズナーの2人だけとなっていた。

「お待ちしておりましたよ、宇宙斗艦長」
 サブスタンサーを降りたボクたちを出迎える、メルクリウスさん。

「ケッ、神出鬼没な野郎だぜ。火の海になった火星から消えたかと思えば、こんなところで胡坐(あぐら)をかいてやがったか」

「穏やかでは、ありませんね。こう見えてボクも、自分の仕事をしていたのですよ」
「メリクリウスさんの言う仕事って、もしかしてボクと同じなんじゃ?」

「そうだと思います。地球に残った企業国家を、纏めようとしてはいるのですが……」
「こんな有り様の、地球に残る連中だ。一筋縄で、行く相手じゃねェだろ」

「今までは、確かにそうでしたよ」
 含みのある言い方をする、メルクリウスさん。

「つまり、ゲーやウーが暴走したコトで、彼らが聞く耳を持つようになった……と?」
「あくまで以前よりは、ですがね。さあ、そのやっかいな交渉相手の元に、参りましょう」
 緑色のコートを着た優男は、ボクたちを代表取締役の元へと案内してくれた。

「まったく、信じられねェぜ。こんなガキが、火星艦隊を壊滅させた艦隊の司令官だなんてよォ」
 黒い木材の床と、モルタルが塗られた白壁に囲まれた部屋は、豪奢なビロードの椅子に座った男がくわえた葉巻のお陰で、灰色に煙っていた。

 男の前には、手の込んだ彫刻が掘られた飴色の机があり、上には色とりどりの酒瓶が並んでいる。
天井には、黄ばんだシーリングファンが、意味もなく働かされていた。

「クセェ部屋だな、ここは。ブタ小屋か?」
 プリズナーが、ボクも思っていたコトを口に出す。

「ああ。クソが、この部屋から無事に出たけりゃあよ。滅多な口は利くモンじゃねェぜ」
 ドス・サントスは、葉巻をガラス細工の灰皿で押し潰すと、酒瓶を1本開けて飲み干した。
空になった酒瓶を、大きく振り上げる。

「……ンなモン、武器にすんな、ボケ!」
 プリズナーの銃が、ドス・サントスの酒瓶を無数のガラス片に変えた。

「まあまあ、お2人とも。ここでいがみ合ったところで、なんの解決にもなりませんよ。ここは1つ、穏便に話し合おうではありませんか」
 にこやかな笑みを浮かべて、2人の間に割って入る若草色のコートの男。

「そうですね、メリクリウスさん。ボクたちは、交渉をするためにやって来たんです。西部劇の真似事なんて、するつもりはありませんよ」
 ボクは、長テーブルの前に置かれた、キャラメル色のソファに座る。

「ケッ、交渉なんざする気も無かったんだがな。あとは、任せるぜ」
 長テーブルの上には、パイナップルやバナナなどが置かれた籠があって、手りゅう弾や薬きょうなども混じって入っていた。

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