高台の村の建設
2人の優秀なアシスタントを得たリュオーネは、高台に建てられた簡易小屋を見上げていた。
「まさか半日で、事務所に家を3件も建てるなんて、流石の腕前だねェ」
木組みのロッジ風建物の周りを、グルリと見て周る大魔導士。
「材料に倒木や流木を、使っているからね。耐久性までは、保証できないよ」
山の民と翻意にしている、大工の集団の頭領が答える。
「アタイら流れの大工は、金さえ払ってくれんならどんな家だって建ててやるぜ。あっと、流石に材料は必要だがね」
頭領は背の高い少女で、黒髪のポニーテールを大きな白い紐で結んでいた。
切れ長の眼にオレンジ色の瞳をしており、目じりを紫色に塗っている。
胸元の開いた赤い着物を着ていて、靴と一体化したニーソックスを履いていた。
「しかし、大工の頭領が女だったとはな。驚きだぜ」
「女でなにが悪い。この祀里(まつり)サマをナメたら、痛い目見るぜ」
大工の頭領は、大きな木槌をティンギスに向ける。
「わ、悪かったよ。そう怒るなって。アンタの腕前は、認めてンだからよ」
ドレッドヘアの漁師は、後ずさりをして離れて行った。
「フン、まあいいさ。ところで海の王サマに大魔導士サマ。他にご注文はあるかい?」
「事務所と、作業員の寝る家以外か。どうだ、リュオーネ」
「拠点としては、十分だよ。今から村の設計図を書くから、意見をくれるかねェ」
「今からって……アンタ、図面が引けるのかい?」
「長年、研究者なんてモノをしているんでね。お手のモノさ」
リュオーネは、切り株のテーブルに大きな紙を広げる。
「高台のこの辺りを、村の中心広場としたい。そこから山に向けて道を走らせ、なるべく木を残しながら民家を建てて行く感じでどうだい?」
紙にペンを走らせる、リュオーネ・スー・ギル。
「それでも、何本かの木は斬らなくちゃいけないだろうね。今回の津波で、無事に見えても痛んでいる木もあるだろうから、見立ては長老にお任せするよ」
「ウム、任せるが良かろう」
山の村の長老が、頷いた。
「あとは水源だね。ここは高台だから、水の確保が重要なんだ。ルスピナ、アンタの出番だよ」
「え、わたしですか、リュオーネさま!?」
「これも魔法の修行の1つだよ。ホラ、こうやって水を感じるんだ」
リュオーネはルスピナの背中に立つと、手を重ねて目を閉じる。
「は、はい……リュオーネさま」
「どうだい、なにか感じるかい?」
「え、えっと、あっちに水を感じます」
「おやおや。修行もまだなのに、わかってしまうとはね」
大魔導士は、見どころのある弟子に肩を竦(すく)めた。
「それじゃ、ホントに合ってるのか?」
「ああ。ちょうどあのデカい木の辺りさ。恐らく、地下洞窟に水が溜まっているんじゃないかね」
バルガ王の前を横切りながら、魔導士は指し示した木の下まで歩いて行く。
「こっから、井戸を掘るんだろ。力仕事なら、オレたちの出番だぜ」
「船が陸に乗り上げちまって、漁に出られなくて鈍(なま)ってたところだ」
「部下たちも呼んできて、一気に掘り抜いてやるぜ」
ティンギス、レプティス、タプソスの、海で鍛えられた大柄な身体を持った3人の漁師たちは、仲間を呼びに山道を駆け登って行った。
「仕事を得て、はりきってるね。まさに、水を得た魚のようだよ」
「悪いんだが、魔導士さま。アタイらにも、仕事を振ってくれないかい?」
「もちろん、そのつもりだよ。集落の建物の位置関係は、こんな感じでどうだい」
「なるホド。即席にしちゃあ、良くできているね。村の中の動線は問題無さそうだが、船を置く浜辺とをどう結ぶかが問題だよ」
「ふぉっふぉ。よもや魔導士サマのように、飛んで移動などできませんからの」
「これは、恥ずかしいミスをしてしまったね」
「地下洞窟への道を階段状にして、そこから真っすぐに彫り進めれば、浜辺に出られそうだよ」
「流石は、大工の頭領だね。祀里、アンタの案を採用するよ」
リュオーネは、村の設計図に修正を加える。
高台の村の建設は、こうして始まった。
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