ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第03話

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やり甲斐と家族

 授業が終わると、ボクはユミアに呼び出される。

「まさか、加害者の男共に会いに行くんじゃ、ないでしょうねえ?」
 栗毛の少女が、ボクを睨みつけ言った。

「そのつもりだったケドね。正式に告訴があったとなれば、会うのは止した方がいいだろう」

「意外に冷静じゃない」
「ただ、先方の弁護士に遭えるなら、会ってはみたいんだが……」

「ウカツに会うのは危険ですよ、相手はプロの弁護士ですから」
 話に割り込んできたのは、ライアだった。

「隙をみせれば誘導尋問をされ、相手方に有利な情報を与えてしまいます」
「それはそうだけど、妙に詳しいな?」
 ボクの言葉に、正義の少女は俯いてしまう。

「あまり言いたくはありませんが、裁判は何度も経験してますから……」
「なんだかスマンな……」
「いいえ。ですが一旦、相手の出方をうかがった方が得策かと」

「裁判所にお互い出廷して、簡易裁判って可能性もあるしな」
「その可能性は、低いと思いますよ」
 そう忠告したのは、メリーだった。

「相手の弁護士は、金の為に動くと聞きました。つまり、出来る限り自分に注目が集まり、金が流れ込む裁判がしたいハズです」

「そこまで守銭奴で無いコトを、祈るばかりだが……」
 ボクの希望的観測は、次の日には脆くも瓦解するコトになる。

「ところで先生って、アパートの退去期限が近いとか言ってたよね?」
 エレベーターに乗ると、一人の生徒が親し気に話しかけてきた。
「ああ。今日を含め、あと三日でなんとか探さないとな……」

「先生って大変そう。なんで無理して、先生なんてやりたがるの?」
「キアだって、バンド活動やライブは大変だろう?」
 降下する箱の中で、ボクは真っ赤なツインテールの少女に質問する。

「なに言うてんねん。音楽バンドが大変なワケあるかい……って、大変ちゃ大変やけどな」
「そっちの喋り方の方が、キアらしいぞ」

「まあ、みんなとも多少は仲ようなれたし、ぼちぼちやな」
「これから、ライブか?」
「ちゃうで。今日は、練習やらなんやら……」

「どうした、キア?」
「なあ。やっぱ先生って、楽しいからやってんねんな?」
「そうだな。大変で責任も重大ではあるが、やり甲斐はある」

「うちのオトンも、専門学校の教師やった頃は、楽しそうにしとったで……」
 いつも元気に跳ね回っているツインテールも、今はだらりと垂れている。

「何か……あったのか?」
「今朝、妹たちと会ったんや。そしたら……な」
 ボクを見つめるキアのつり目が、涙で潤んでいた。

「シアのヤツ、顔に大きなアザができとんねん」
「え、それって……」
「本人に聞いても、転んだだけ言うねんケド、タブン……」

 キアの家族に起きているのは、家庭内暴力だろう。

「ミアとリアも、極端に元気がないねん。きっと、シアに口止めされてんで」
 キアの妹であり、中学生の年齢のシア。
ミアとリアもやはり妹で、小学生の年齢の双子姉妹だ。

「うちだけこんな、豪勢なマンションに住んでんなんて、イヤや……」
 エレベーターは既に、一階のエントランスに到着していた。

「親父さんは、先生ってやりがいを、失ったんだな……」
「だからって、娘に手ェ挙げていいワケないやろ?」
「ああ……」

「うち、行くわ。今日シアに会って、問い詰めてみるつもりや……」
「そうだな。お前は三人のお姉さんだ。それは、忘れるな」
「せやな……おおきに」

 キアはそれだけ言うと、マンションを出て、どこかへ駆けて行った。
けれども背中に、いつもの『カニ爪ギター』は見当たらない。

 教民法、ユークリッド……成功者の影で、多くを失う者たちがいる。
それは、やりがいだったり、家族だったり、あるいは命さえ失った人間もいるだろう。

「このまま、教師をクビになってしまったら……ボクはボクのままでいられるのだろうか?」
 けれども淀んだ空は、何も答えを返さなかった。

 

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