ラノベブログDA王

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王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第04話

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嵐の予兆

 ボクは次の日、不安と共に目覚める。
理由の一つは、生徒の一人である美乃栖 多梨愛が、傷害容疑で告訴されたからだ。

 そしてもう一つ、真っ赤なツインテの少女、可児津 姫杏の不安に満ちた顔。
「妹さんの件、お父さんと上手く仲直りできればいいが……」
洗面台の鏡に、歯ブラシを加えた冴えない顔が映っている。

「問題ってのは、一つ一つ順序よく起こってはくれないなあ」
 コーヒーと食パンを食べながら、ふとテレビのスイッチをONにした。

『今日はここ、教育動画で有名なユークリッドの、超高層高級マンションからの中継です』
 女性のレポーターが、見慣れた円筒形の建物の前で造られた笑顔を振りまいている。

『このマンションには、教育動画にて教鞭を振るう、おなじみの先生たちが住んでいて、もちろんあの有名な女子高校生数学教師、瀬堂 癒魅亜さんも最上階に部屋を構えているとのコト』

 義務教育が無くなり、教育が民間に移譲された現在、高校生とか中学生という言葉は、もはや年齢を現わす単位でしか無かった。

「これは……思ったより大事にしてきたな」

『スタジオの塩谷です。今日はどうして、ユークリッドのマンション前から中継が繋がっているのか。まずは、こちらの映像をご覧いただきましょう』

 それまで、スタジオの司会者たちを映していた映像が、記者会見へと切り替わる。
久慈樹 瑞葉がニューヨークで開いた、豪奢な記者会見場では無い。
一人の男の周囲を、大勢の記者が取り囲んでいるという、ありふれた物だった。

「わたくし、 邦康と申します」
 頬のこけた背の高い男が、気持ちよさそうにフラッシュを浴びている。

「実は今回、ある傷害事件の被害者である少年たちから、弁護を承ったのです」
 男は堂々と、少年たちを『被害者』と言った。

「加害者も未成年であり、少年法もあるので実名は伏せますが、彼らはユークリッドの生徒によって病院送りにされたのです」

『今、ユークリッドの生徒……と仰いましたよね?』
『先生の、間違いではないのですか?』
 天空教室の存在を知らない記者たちが、弁護士に問いかける。

「ええ、わたしも最初は、耳を疑いましたよ」
 男は不敵に笑った。

「既存の学校教育を否定し、義務教育や学校の存在を否定して成り立っているのが、ユー・クリエイター・ドットコム……通称、ユークリッドですからね」

「ユークリッドは、学校教育そのものを否定したワケじゃないさ。学校教育の至らない点を、否定してはいるが……」
 テレビの向こうの弁護士に、やり込められてしまうボク。

 その後も、瀧鬼川弁護士の雄弁は続いた。

 ボクは、退去期限まで二日と迫ったアパートの扉に、鍵を掛け出勤する。

「ユークリッド……ユミアに雇用される前のボクであれば、彼の言葉に共感し大きく頷いていたハズだ」
 立場が変われば、主張も変わってしまうのだ。

「ボクは、ユークリッドという大企業の看板に、泥を塗ってしまったってコトだよな」
 足取りも重く地下鉄の改札を潜ると、ポケットのスマホが震える。

「はい、もしもし……」
「フフ、どうした。浮かない顔をして?」
 どうして浮かない顔をしていると解かるかは、聞くまでも無かった。

 実際ボクは浮かない顔をしていたし、スマホの向こうの人物に何を言われるのかと、内心怯えていた。

「悪いが授業の前に、社長室に寄ってくれないか?」
「は、はい」
「瀧鬼川弁護士……中々に笑わせてくれる、男じゃないか?」

 ボクのスマホは、そう言って切れた。
「やはり社長は、このまま引き下がる気は無いみたいだ」

 今回の事件以前から、ユークリッドはマスコミに評判が悪い。
それは、時代を変えた変革者にたいするやっかみでもあっただろう。

「生徒たちまで、弁護士やマスコミとの争いに巻き込みたくはないが……」
 けれどもそれは、あまりに希望的観測に思えた。

 

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