ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第01話

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新たなるメディア王

 その日ボクは、天空教室のあるマンションから程近い高層ビルの、ある部屋の前に立っていた。

 優雅な丸みを帯びたデザインのマンションとは異なり、ひたすら直線と直角を重ね合わせた先鋭的なデザインの建築物だ。
ただ、それが天に向かって五本もそびえ立っているのは、どこか現実感を欠く光景に見える。

「来たか、入りたまえ」
「失礼します」
 ボクはその日の午後から、天空教室でユミアたちの授業を行う予定でいた。

 けれどもボクの決めた予定など、巨大企業はまったく意に介さない。
仕方がないので、目の前の仰々しいマホガニーの扉を開けた。

「この度はボクの生徒が、傷害事件を起こしてしまいました」
 部屋の床はどうやらダークオークで、コバルトブルーの長細い絨毯が敷かれ、その先にはクラッシックなデスクが置いてあった。

 デスクは細かな装飾が施されており、やはりマホガニーで出来ていた。
この高級木材は柔らかく加工が容易なため、かつては大航海時代のガレオン船などもにも使われていた。

「今朝、相手方の弁護士から、正式な告訴状が届いたよ」
 そう言った男は、背中を向け窓の外を眺めている。
デスクの上には、男が言った書類が置いてあった。

「瀧鬼川 邦康弁護士ですか」
「どこで、その情報……フッ、最近の警察はずいぶんお喋りと見える」
 男は振り返ると、高い背もたれの椅子に座った。

「大変に申し訳ありませんでした。ボク自身は、どんな処遇も受け入れる覚悟です」
 正直に言えば、天から降って湧いたような『先生』という職業に、しがみつきたい気持だった。
だが、生徒たちとの決別を言い渡される瞬間が、間近まで迫っている。

「ボクとの、約束の内容を覚えているかな?」
「はい。ユミアに笑顔を取り戻し、生徒たちを一人も脱落させずに、一定以上の学力を身に着けさせるコト、ですよね……」

「そうだ……期限は三か月」
 久慈樹 瑞葉は、ゆっくりと目を閉じる。

「事件を起こした生徒も、今のところ教室に来ている。ユミアの笑顔については、キミとの契約条件では無い」

「え……?」
 思わず耳を疑う。

「よって、キミの契約解除には当たらない」
 ユークリッドの現経営者は、きっぱりと言い切った。

「で、ですがボクは、自分の生徒に暴力事件を起こさせて……」
「聞けばそれも、相手方に落ち度があるようじゃないか?」
「ボクの監督不行き届きに、変わりはありません……」

「クソがつくホド、真面目な男だな……キミは」
 ボクと同い年の社長は、ため息を吐きながら言った。

「愚かな人間は、他人の言葉で自分を縛る。だが、賢い人間は……」
 手を組み野心的な瞳でボクを見上げる、久慈樹 瑞葉。

「自分の言葉で、他人を縛るのさ……この意味が解るかい?」
 彼は、無邪気に笑う。

「はあ……なんとなくは……」
 ホッとしたのか、ボクは気の抜けた答えをした。
けれども この時のボクは、久慈樹 瑞葉の本質を何一つ理解していなかった。

「ボクはアメリカで、日本の動画の未来を変えると宣言した」
「はい……」

「それにはまず、既存のメディアであるテレビ業界を、叩き潰さなくてはならない」
「えッ!?」

「テレビの時代は終わったなどと言う、阿保どもは大量にいるが、ヤツらは依然として大きな権力を持っている」
「公共の電波によって全国規模で視聴され、商品を宣伝できるのは強いですよ」

「だが今は、個人の動画でそれが可能さ。個人が商品を紹介し、政治ニュースを流し、ゲーム実況で多額の利益を出す時代だ」
 アナログ人間のボクだったが、そのくらいの情報は知ってはいた。

「テレビが情報を支配し、世論を支配し、時代を支配する時代は終わりを告げる」
 男は立ち上がると、再び窓の外を向いた。

「今こそユークリッドが、新たなメディアの支配者に君臨するのだ」
 男の眼下には、小さな人や自動車が行き交う街があった。

 

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