ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第ニ章・EP008

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

揺るがぬメンタル

「フッ、まだ勝負は諦めてないようだな」

 杜都さん、ドリブルで走りながらでも余裕で喋ってる。
かなりの心肺機能だし、それに強靭なメンタルだ。

「で、でも!」
 サッカーは、アスリート能力やメンタルに優れた選手が、勝つとは籠らない。
その証拠に、ドリブルによって走るスピードは遅くなっている。

「仕掛けてくるな、御剣 一馬……」
 紅華さんのドリブルは、普段と変わらないスピードだった。
杜都さんはテクニックで劣るから、ボクでも追いつけるんだ。

「だが、ボールは渡さん!」
 杜都さんは、腕でボールをガードするようにドリブルする。

 確かに身体は屈強で、精神的にも優れたアスリートだ。
だけど……攻略の糸口は見つけた。

「ムッ、オレの背後に回って、追いついて来ないだと!?」

 そう……追いつけるケド、あえて追いつかない。
身体で当てられたら、吹っ飛ぶのはボクの方だから。

「オレの背中から、左右にフェイントを……クッ!」
 その時、杜都さんのドリブルが僅かに乱れた。

「ここだッ!」
 ボクは一旦、杜都さんの右からボールを取りに行くフリをして、左側から横に出る。

 そして、右脚の足先でボールをチョンと触った。
いくら屈強な体で突進しようと、ボールにまで筋肉が着いているワケじゃない。

「マ、マズイ!」
 慌てる、アスリート。
ボールはボクたちの進む方向の、右に転がる。

「やるな、御剣 一馬」
 慌てて咆哮を変える杜都さん。

「でも、ボクの方が早い!」
 口から無意識のウチに、言葉が飛び出した。
ボールを持ち、そのままドリブルを始める。

 後ろから迫る杜都さんの圧を感じたが、そのままゴールのパラシュートサックまで駆け抜けた。

「ハア、ハア、ハアッ!」
 な、なんとか勝てた……のかな?

「御剣 一馬……貴官の勝ちだ」
 杜都さんが、草むらに倒れ込んだボクに言った。

 少しだけ、声に力が無い気がする。

「やはり、オレなどでは通用せんか……」
 ……ん?

「いくら身体を鍛えたところで、所詮は付け焼刃」
 あ、あれ?
「本物の技術の前では、オレのパワーなど稚戯に等しいと言うコトか……」

 きゅ、急にネガティブなコト、言い出したんですケドォ!?

「笑ってやってくれ、御剣 一馬……」
 杜都さんは、ボクの隣に腰を下ろす。

「小真希航自・第五学校に所属していると言ったが、アレはウソだ……」
 ど、どうしてそんなウソを?
ボクは起き上がって、杜都さんを見た。

「お前も薄々、感づいていたと思うが、オレはメンタル豆腐でな」
 いえ、ぜんぜん気付きませんでしたぁ!

「学校の入学試験の当日、緊張し過ぎて酷い下痢になり、けっきょく試験を受けられなかったんだ」
 マ、マジでェ!?

「仕方なく小真希基地の近くにある高校に、通っているというワケさ。防衛大にも、自衛隊にも何のコネクションも無く、サッカー部も弱い高校にな」

 倉崎さんのノートに、身長185センチとあった男が、隣で背中を丸め小さくなって座っている。

「そ、それじゃ……こ、降下……」
「ん、千葉でのヘリからの降下訓練か。それは本当だ」
 そこは、本当なんですかッ!

「将来は、自衛隊基地所属のサッカーチームに入るのが夢だったが、儚い夢だったな」

 弱わ!
この人、メンタル弱わ!

「御剣 一馬……貴官は常にクールで、顔色もあまり変えない」
 いえ、単に喋るのが極端に苦手なだけで……。

「その強靭なメンタル、羨ましい限りだよ」
「……」
 ボクはしばらく、その場で固まっていた。

「ところで貴官は、この川べりに何をしに来たのだ?」
「ス、スカウト……」
 いつもより、声が出る。

「スカウトとは、ボーイスカウトのコトか……なに、違う?」
 ボクは、倉崎さんの名刺も見せた。

「ま、まさかとは思うが、オレをスカウトしに来たのか?」
 ボクは、コクリと頷いた。

 前へ   目次   次へ