ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第49話

とある孤児院の闇

「孤児院から、子供が養子として貰われて行くなんざ、よくある話さ。10年以上も前のコトを、イチイチ覚えちゃ居られないんだよ」
 細川 珠の甲(かん)高い声が、ドーム会場に響いた。

「記録は、残っていないのですか?」
 すかさず、マドルが問う。

「母さんの時代なら、付けてたかもね。だケド、とっくに処分しちまって無いよ」
 3女の高山 妙(たえ)が、ぶっきら棒に切り捨てた。

「それはかつて、何らかの記録があったと言うコトですね」
「だから、今は残って無いっつってるだろ!」

「残って無いと言うより、残して無いのでは?」
「な、なんだって!?」

「都合の悪い記録を、あえて残す必要は無いと言うコトです」
 妙の動揺を突く、マドル。

「都合が悪いだって? アンタさっきから、言ってる意味がわからないよ!」
「わかっているから、怒りで誤魔化そうとしているように見えますが?」
「テメ……このヤロウ」

「素性の不明な、子供たち。貴女方姉妹にとっては、良き商材なのでしょう」
「オ、オイィ、マドル! 証拠は、あるんだろうな。証拠は!」

「モチロンさ、警部。我輩もあれから、この孤児院について色々と調べ上げた。身寄りの無い子供たちを、それを必要とする人間に養子と言うカタチで売り飛ばし、替わりに寄付と言う大金を得ている。そんな証言が、尽きないんだ」

「ど、どこから……それを……」
「妙! 余計なコト、喋るんじゃ無いよ!」
 長女の珠が、妹を叱る。

「お互いに暗黙の了解であり、互いが互いの詮索は行わなかった。あくまで貴女方は、孤児の子供を裕福な家に養子に出しただけ……でしょう?」

「そ、そりゃ、そうよ。問題無いハズだわ」
「子供たちが美味いメシにあり付けるなら、それに越したコトはないじゃない」
 イエス、ノー形式の問いかけに、珠と妙は暗に認めてしまった。

「替わりに裕福な家は、孤児として生きて来た子供を得た。当然ながら、中には子宝に恵まれず、養子を迎えた家もあったでしょう」

「アンタ……なにが言いたいんだい?」
 次女の菊も、言葉が荒くなる。

「そうじゃ無い家も、あったと言うコトですよ」
 神於繰 魔恕瘤(かみおくり マドル)は、言った。

「マドル。そうじゃ無いと言うのは、1体どういう意味だ?」
「解らないかな。例えば子供を、性の玩具として買った」

「そ、そんなコトが、あるハズ……まあ、否定は出来んか」
 警察と呼ばれる組織で生きて来た男は、納得する。

「アタシらからすりゃあ、養子に送り出した家で、大切に育てられているって前提なんでね」
「孤児院を離れた後のコトなんざ、知ったこっちゃ無いんだよ」
 毒づく、珠と妙。

「他にも、交通事故で河に流されて死んだ少女の、替え玉に使ったなんて突飛押しも無いコトまで、あったかも知れません」

「マ、マドル……」
 事前に聞いていたとは言え、驚きを隠せない感じの警部の声。

「何度も、言っているでしょうに。わたし達は、養子に出してしまえば例えそのコがどうなろうが、責任を取る義理は無いんですよ」
 菊が、冷徹な口調で言った。

「まるで子供を、金と引き換えの道具のように扱っておられますな」
「オヤオヤ。だったら、子供をウチの教会の玄関に、置き去りにする親の方を、咎(とが)めたらどうでしょうか?」

「アタシらはね。これでも多くの子供たちを、社会に送り出してんだ」
「警察にとやかく言われる筋合いは、無いね」
 3人の中年のシスターは、口を揃える。

「どうでしょうか……」
「なんだって!」
 マドルに喰いつく、妙。

「我輩たちは現在、マスターデュラハン殺人事件を担当しておりまして」
「ああ、知ってるよ」
「未だに解決されないって、新聞じゃお笑いのネタさね」

「知っての通り、この孤児院で育った渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)と言う少女が、殺されました」

「アンタを始め、警察にゃ何度も尋問されたからね」
「あの根暗なコは、最期まで疫病神だったよ」

「そのサキカさんの件に、貴女方が関わっていると、警察は見ているのです」
 マドルの言葉に、青褪(ざ)める3人のシスターの顔が、ボクの脳裏に浮かんだ。

 前へ   目次   次へ 

キング・オブ・サッカー・第10章・EP026

スカウト話

 ボクたちは、ライブハウスの地下にある観客席で、宝城さんの話を聞き終える。

「え? えっと、つまり……いただきますって言わなかったから、退学になっちゃったんですかァ!?」
 沙鳴ちゃんが、思ったコトを口にした。

「だから言ったろ。とんでも無く、下らねェ理由だって」
 美浦さんが、ドヤ顔で頷(うなず)いてる。

「だが厳煌(げんこう)教諭も、それが理由で題醐(だいご)を退学させたワケじゃない。その後も、色々とあってな。とにかく2人は、折り合いが悪かった」

「宝城の、言う通りでな。厳煌はたまたまなのか、自ら名乗り出たのか、オレらサッカー部の顧問に就任しやがってよ。ま、去年までの顧問が、他の学校に移っちまったってのもあるんだが」

「厳煌教諭は、髪型や素行の悪さを理由に、題醐をレギュラーから外したんです。それからアイツは、部活にも顔を見せなくなってしまいました」
 宝城さんと美浦さんが語る、題醐さんの退学理由に、ボクも沙鳴ちゃんも口を開きっ放しだった。

「なんだかねェ。時代錯誤な教諭が、来たモンだ」
 呆れ果てる、ポエムさん。

「仏教高校ってのは、そんな感じなのかい?」
「今の時代ですからね。ウチはかなり、厳しい方かと思います」
「これでも昔よりマシになったって話だから、イヤになるぜ」

「ダーリン。そう言えばウチも、仏教系じゃなかった?」
「アレ……そだっけ?」
 はっきり、覚えてないや。

「仏教系って言っても、ピンキリなんだね。ま、かく言うアタシも、親父がイギリス人だからってのもあって、キリスト教系の女子校に行かされたんだ」
「そうだったんですね。ポエムさんの学校は、厳しく無かったんですか?」

「厳しかった気がするケド……ほとんど通わずに、退学しちまったからね」
「ええッ!? ポエムさんも、学校を退学されてたなんて!」

「親父が、死んじまいそうなときだったんでね。学校どころじゃ、無かったのさ」
 ポエムさんの哀しそうな視線の先には、オヤジさんの遺したと言う、ドラムセットがあった。

「ところで……キミたちは、題醐をスカウトに来たらしいが、詳しく聞かせてくれないか?」
 ボクたちに問いかけて来る、宝城さん。

「はい。実は、わたし達は……」
 沙鳴ちゃんが、ボクたちが題醐さんをスカウトしに来た経緯(いきさつ)を、丁寧にわかり易く説明してくれた。

 沙鳴ちゃんって、まだ中学生なのにしっかり者で優秀だよな。
ボクが、しっかりして無いだけだケド……。

「へッ!? く、倉崎 世叛って、あの倉崎 世叛!!」
「ま、まさか、Zeリーグ期待の新人王候補が、チームオーナーだなんて!!」
 美浦さんも宝城さんも、眼を丸くしていた。

「アンタらが驚くのも、ムリは無いよ。サッカーを知らないアタシですら、聞いた名だからね」

 倉崎さんは、名古屋出身で地元の名古屋リヴァイアサンズ所属なだけあって、地元のテレビでも度々特集されてるからな。
サッカーに興味無い人でも、けっこう知ってたりする。

「オイオイオイオイ。こりゃあ、スゴいコトだぜ、宝城よ!」
「わ、判っている。不本意なカタチでサッカーを諦めた、アイツにとってはこの上なきイイ話だ」

 少し前までチームメイトだった2人は、ボクたちの持ってきたスカウト話を、とても喜んでる。

「なあ、アンタら。水を差すようで悪いんだケド、当の本人はサッカーを辞めたって言ってるんだよ。アイツは、1度言い出したら曲げないからねェ」

「そ、そうでしたね。アイツの性格を、忘れてました」
「だけどよ、宝城。こんな旨い話を、放って置く手は無ェぞ」
「ああ。何とか翻意させられれば、良いのだが……」

「あッ、テメーら。まだ居たのか……って、なんで宝城や三浦まで居るんだよ!?」
 そのとき、題醐さんが階段から降りて来た。

 前へ   目次   次へ 

一千年間引き篭もり男・第09章・21話

引き篭り男のプロポーズ

「凄まじい活躍じゃ無ェか、宇宙斗艦長よ。敵のサブスタンサー部隊を殲滅した挙げ句、艦隊の旗艦まで沈めちまうたァ、大した戦果だぜ」
「ボクたち、出番すら無かったよ。少しは、残して置いてくれたら良かったのに」

 任務を終えたボクが、宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアの格納庫へと戻って来ると、プリズナーと美宇宙が出迎えてくれた。

「そう言うなよ、美宇宙。遊びじゃないんだから、危険は避けるべきだ」
 ゼーレシオンのコックピットハッチを開け、返事をするボク。

「アレ、オリジナルのボクの他にも、誰か載ってるよ?」
「ア? 誰だ、ソイツらは?」

「撃破したサブスタンサーの、パイロットたちさ。なるべくコックピットを避けて沈黙させたつもりだケド、空気漏れでもあったら死んでしまうからね」

 気を失っている2人の少女を抱え、無重力に近い格納庫内に飛び出した。

「お優しいコトで。それにしたって、敵を撃破した上に捕虜にまでしちまうたァな」
「ホント、スッゴイよ。これで捕虜も、3人確保だね。でも、今回も女のコかァ」
「二ヒヒッ。クーリア様の怒った顔が、目に浮かぶぜ」

「茶化すなよ、プリズナー。コリーさんは、女のコって年齢でも無いだろ」
 プリズナーに指摘されるまでも無く、クーリアの冷徹な笑顔は既に、ボクの脳裏に思い浮かんでいる。

「艦長に比べりゃ、どんな婆さんだってションベン臭い小娘じゃねェか」
「このコたちも、オシッコ漏らしちゃってる。ボクが、洗ってあげようか?」
「頼むよ、美宇宙」

「ウン。任せて!」
 ボクは2人の少女を、美宇宙に引き渡した。

「ヤレヤレ。これでクーリアにも……」
「宇宙斗、アナタは女のコ全員に対して、優し過ぎるのではありませんか!」

「うわあッ!?」
 突然現れたクーリアに、驚きまくるボク。

「え、えっと……か、彼女たちのサブスタンサーはボクが撃破して、2人の機体は宇宙空間を漂っていたんだ。放って置いたら、死んでしまう可能性もあったから……」
「先に仕掛けて来たのは、向こうなのですよ。彼女たちも、戦死は覚悟の上でしょうに」

「ま、まさか、2人を宇宙に放り出す気なんじゃ?」
「そこまでは、致しません。捕虜として、丁重に扱わせていただきます。捕虜は、今後の交渉材料になり得るかも知れませんから」

 クーリアは、取り巻きで部下でもあるレオナとリリオペに指示を出し、美宇宙の後を追わせた。

「クーリア。敵の2個艦隊を撃破したとは言え、まだ敵の戦力は残っている。現に足の速い高速艦隊を振り切ったハズなのに、先回りされて……」

「解っております……宇宙斗!」
 緩い重力の中で、身をボクに預けるクーリア。
その気高き口唇が、ボクの言葉を遮(さえぎ)った。

「わたくしには、どこにも帰る場所がございません」
 ボクの胸で、弱音を吐露するクーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。

『ボクが、キミの帰る場所になってあげる』……とでも、言えばイイのだろうか?
 だケド、そんな気の利いた台詞は、ボクの口からは出て来ない。

「クーリア。キミは、ボクが護る」
 それが、精一杯だった。

「まったく……仕方ありませんわね」
 呆れ顔のクーリアが、上目遣いでボクを見ている。
少し膨れッ面で、少し笑顔も混じっていた。

「ゴ、ゴメン。こう言うのは、苦手で……」
「フフ。わたくしだって、大して得意ではありませんのよ」
 急に無邪気になる、クーリア。

 それから、色々な要件を済ませたボクは、再びクーリアと1夜を共にする。
1度きりの関係かと思っていたが、そんなコトも無くクーリアはボクに身を委ねてくれた。

 太陽の光が、ボクたちが過ごしたベッドに差し込む。
宇宙で見る太陽は、地球で見る太陽とは違い、星の海の中でポツンと小さく輝いていた。

「クーリア。ボクと、結婚してくれないか……」
 懐(ふところ)に感じる温もりに向って、問いかけるボク。

「はい……わたくし……ずっと……宇宙斗のコトが……」
 たくさんのモノを背負って来た少女は、涙声で応えた。

 前へ   目次   次へ 

ある意味勇者の魔王征伐~第13章・113話

プルム・ヴム

 3つの黒きエネルギー球(トゥリ・シューラ)が、闘技場の中央で激しくスパークしていた。

「重力の歪(ひずみ)に、完全に飲まれたな。いくらお前の剣で身体を強化しようが、圧縮された重力の穴からは抜け出せまい」
 大暗黒剣(マハー・カーラ)で重力球を制御しながら、勝ち誇るレオ・ミーダス。

「オイオイ、どうすんだよ。アイツの剣が作った球に囲まれて、舞人のヤツ消えちまったぞ!」
「ルーシェリアの嬢ちゃんよ。あの球は、なんなんだ?」
「ヤツの剣は、イ・アンナと似た能力と言ったが……」

 ティンギス、レプティス、タプソスの3人が、ベレ・ロ・ポンティスとの戦いを繰り広げている、ルーシェリアに問いかけた。

「剣の能力は、どちらも重力を操る能力じゃ。ヤツがトゥリ・シューラと呼んだ黒い球体は、恐らく……クッ!?」
 空中を舞うルーシェリアの長い漆黒の髪が、槍によって貫かれわずかに落ちる。

「わたしを前にお喋りとは、余裕がありますね。ですが、わたしの槍(プルム・ヴム)は、あらゆる形態をとれるのですよ」

 ベレ・ロ・ポンティスの投げた槍は、解けるようにして形態を変化させた。
銀色の長い紐のようなカタチとなって、ルーシェリアの身体にグルグルと巻き付く。

「な、なんじゃ、この槍は……グアァッ!?」
 身動きが取れず、闘技場に墜落する漆黒の髪の少女。

「ルーシェリアの嬢ちゃんが、堕とされちまった」
「オレたちが、話を振ったからだ。ヤベェ」
「幸い、近場に落ちた。助けに行くぞ!」

 3人の船長たちは、観客席へと落下したルーシェリアの元へと駆け寄り、それぞれの盾を構えた。
イオ・シルら12人の少女も駆けつけて、ルーシェリアの身体に巻き付いた銀色の紐を、振り解(ほど)こうとする。

「な、だんだ。この紐は!」
「ヌルヌルしていて、解いてもまた元に戻ってしまうぞ!?」
「う、うわァ。こっちにまで、巻き付いて来た!?」

 銀色の紐は、やがて3人の船長と、12人の少女全員を絡め取ってしまった。

「ククク。プルム・ヴムは、あらゆる形態になれるのです。さあ、今から我が槍を、アナタ方の体内へと進入させて見せましょう」

「オワッ!? コ、コイツ、鼻の穴から入って来るぞ!」
「喋るな。喋ると、口から……ガハッ!」
「こ、このままでは、身体に進入を……グッ!」

「口や、鼻だけではありません。プルム・ヴムは、人体のあらゆる穴から進入して行くのです」

「キャアア!」
「止めて、そこは!?」
「ダメェ!」

 悲鳴を上げる、12人の少女たち。

「子供と言えど、女としての恥じらいは芽生えているようですね。ですがキミたちの体内に侵入したプルム・ヴムは、やがて元の槍の姿へ……グゥッ!!?」

 自らの槍の能力を、得意気に説明していたベレ・ロ・ポンティスが、地面に崩れ落ちた。

「なッ、これは……!?」
「妾の重力剣、イ・アンナの能力を、失念しておった様じゃな」

「わたしの身体が……地面に……!」
「お主は、自らの槍を手放した。お主も、重力に押しつぶされるが良かろう」

 ベレ・ロ・ポンティスの周囲の地面が、重力によって沈んで行く。

「銀の紐の縛りが、緩んだぞ!」
「これで、抜け出せる!」
「お前たち、今助けて……ン?」

 3人の船長が12人の少女の方を見ると、既に彼女たちは戦斧を構えていた。

「よくも、我らが身体を弄(もてあそ)んでくれたな」
「乙女に恥辱を与えたのだから、覚悟は出来ておろう」
「我らが斧を、喰らうがイイ!」

 イオ・シルら12人の少女たちは、怒りに任せて24もの戦斧を1斉に投げる。

「キュマイ・ラー!」
 ベレ・ロ・ポンティスが叫ぶと、彼の前に魔獣が現れた。

 魔獣は灼熱の炎を吐いて、ベレ・ロ・ポンティス目掛けて飛んでいた斧を、全て焼く尽くす。

「な、なんだと!?」
「我らの斧が……」
 12人の少女は、唖然として立ち尽くした。

「あ、危ねェ、お前たち!」
「まだ炎が、治まってねェぞ!」
「間に合ってくれ!」

 3人の船長は少女たちの前に出て、再び盾を構える。
けれども炎が収まった頃には、全ての盾も焼け落ちていた。

 前へ   目次   次へ 

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第49話

孤児院と3人のシスター

「サキカちゃんって、お風呂で首無し死体で発見されたコよね?」
「そうそう。孤児院から来たって言う」
「確か重蔵の次男の、隠し子だったんだよな」

 観客たちが、第2の殺人事件で被害に遭った少女について話し始める。
マドルは薄暗くなった舞台から、様子をそっと眺めていた。

「2人暮らしのお母さんも死んじゃって、孤児院に入ったんじゃなかったかしら」
「じゃあスバルも、同じ孤児院からトアカの代役を確保したってコトか?」
「そこはまだ、判らないわよ。これから、その孤児院に向かうんだから」

 ドーム会場に集まった観客たちの会話も落ち着いた頃、舞台に頼りないエンジン音が流れる。

「そう言えばお前、ハリカの殺された前日にも、孤児院に行ってたよな?」
 警部の声が、言った。

「まあね。ハリカさんの生前、我輩はハリカさんを嗅俱螺(かぐら)家に残し、孤児院へと向かった。もちろん当時は、第2の殺人事件の被害者、渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)さんの素性を調べるために伺ったのだがね」

「警察としても、オレの部下を数名やったが、別に怪しいところは無かったとの報告だったぜ」

「我輩も、自分の目でそれを確かめたくてね」
「オレの部下の報告が、信じられ無ェってか?」

「人それぞれ、見え方が異なったりするモノさ。それにサキカさんは、他の2人の犠牲者とは違う」

「あ、どこがだ? 首を刎ねられ殺されちまったのは、同じに思えるが?」
「孤児院とは、素性も怪しい子供が、大勢暮らす場所だよ」

「殺された3人の少女の中で、サキカだけが素性がはっきりしないってコトか……」

「孤児院の教会が、見えて来たよ。院長はご高齢のお婆さんだケド、彼女の3人の娘たちが実質的な管理を任されている」

 マドルが説明をしていると、頼りないエンジン音は次第に小さくなり、やがて聞えなくなった。

「ヤレヤレ、また来たの。懲りないねェ」
 中年女性の声が、ドーム会場に響く。

「彼女は、細川 珠さん。教会のシスターで、今は教会や孤児院の管理をされている方だよ」
 マドルは嫌味も気にせず、1方的にシスターを紹介した。

 会場に、無邪気な子供たちの声が流れる。
舞台は墓場セットのままだったが、そこが孤児院である演出だった。

「こりゃまた、大勢の子供たちが居るモノですな」
「ウチは、母が慈善活動でやってますがね。それを良いコトに、子供を置き去りにする輩も大勢居るんですよ。大した寄付も無いから、昔は名家だったウチも、今じゃこの有り様さ」

「ウチとは、細川家のコトですな?」
「イヤ、アタシは細川の家に嫁いだんでね。ここは、明智の土地さ」

「オヤオヤ、警部補さん。またおいででしたか」
「遠路はるばるお越しになったって、なにも出て来やしませんよ」
 また別の、2人の女性の声がした。

「申しワケありません。お邪魔させて貰ってます」
「オイ、マドル。もしかして、この方々も?」

「わたしは、小西 菊と申します。姉や妹共々、孤児院を営んでおりますの」
「アタシは、高山 妙(たえ)だよ。まったく、警察ってのもしつこいねェ」

「2人もシスターで、孤児院を切り盛りされているんだ」
「なるホド。これだけの子供の数だ。3人でも、大変でしょうに」

「仰る通りでして。昔は、人を雇っていたのですが……」
「それも今となっては、資金も底を尽いちまってね」
 愚痴を零(こぼ)す、小西 菊と高山 妙。

「ところでアンタら、なんの用だい。聞きたいコトがあるんなら、さっさと聞いてくんな」
「珠姉さん、警察の方に失礼ですわ」
「菊姉こそ、上品ぶってんじゃ無いよ。どうせまた、あの隠し子のコトだろ?」

「残念ながら今日伺った理由は、渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)さんのコトでありません」
「だったら、なんだってんだい?」

「十数年前に、この孤児院から貰われて行った少女が居なかったか、お調べ願いたいのです」
 マドルは、言った。

 前へ   目次   次へ 

キング・オブ・サッカー・第10章・EP025

いただきます

「1応、先に言って置くがよ。マジで、しょーもない理由だからな!」
 宝城さんが話を始めようとした前に、美浦さんが出て釘を刺す。

 題醐(だいご)さんの退学した理由て、そこまでヘンなのかな?

「アイツらしいと言えば、アイツらしいのですがね。では……」
 開演前のライブハウスの観客席で、宝城さんが話を始める。
それをボクと沙鳴ちゃん、ポエムさんが囲んでいた。

「アレは数週間前、学食での出来事でした。学食も近代化はされましたが、ウチは仏教系の高校なので、食事作法にも厳しいんです」

「メニューも、コメがメインの和食中心だしよ。それでアイツ、新たに赴任して来た生活指導の学年顧問と、揉めやがったんだ」
 美浦さんも、当時の様子を語る。

 2人の話の内容を、頭の中で再生させるボク。
校舎の外観は今日見て来たばかりだし、想像もし易かった。

「なんだ、お前その頭は。いくら髪型が自由になったと言えど、その髪型はけしからん!」
 貫禄のある中年のオジサンが、頭ごなしに怒鳴り付ける。

「ア? 誰だ、テメーは。今までだって、この真っ赤な頭でやって来たんだが?」
 真っ赤な髪の男は、気にせず弁当箱の入った包みを開いた。

「わたしは、4月から赴任した厳煌(げんこう)だ。今年度から、学年指導も任されている。わたしの時代なぞ、例外なく全員が坊主頭だったぞ」

「へー、そりゃ良かったな」
 弁当箱のフタを開ける、題醐(だいご)さん。

「生意気なヤツだな。坊主にしろとは、言わん。明日までに、黒髪に戻して来い!」
「だから、なんで?」
「日本男児は、黒髪と決まっているだろう!」

「そりゃ、差別だぜ」
「な、なんだと!」

「黒い肌にチリチリ頭の日本人も居れば、真っ白な肌に金髪の日本人だっている」
「ハーフのコトか。確かにわたしの時代に比べれば、増えた印象だが」

「出稼ぎで日本来て、日本人と結婚したヤツだって居るぜ。日本の国籍持ってりゃ、肌の色や髪の色に関係なく日本人なんだよ。髪の毛が黒が基本とか、同じセリフをアメリカで言ってみろ。差別主義者って言われるぜ」

「グヌヌ……」
 言い返せない、厳煌教諭。

「せ、正論と言えば正論ですケド、屁理屈って言えば屁理屈な気もしますね」
 宝城さんが、そこまで話したところで、沙鳴ちゃんが感想を言った。

「仏教では、禅問答もあるからな。屁理屈と言ってしまえば、相手に負けを認めるコトになる」
「そ、そうなんですか!」
 驚く、女子中学生。

 宝城さんは、話を続けた。
ボクの頭に、再び真新しい学食の光景が思い浮かんでくる。

 弁当箱を持ち上げ、掻き込み始める題醐さん。

「オイ、いただきますはどうした?」
 厳煌教諭が、再び題醐さんを注意した。

「あ、なんだ?」
「いただきますは、どうしたと言っているんだ。お前は今、なにを食べている。肉や魚も、命。コメや野菜だって、命なのだぞ」

「それが、どうした?」
「お前は、命をいただいてるのだ。せめて、お前の血肉となる命に感謝し、いただきますと……」

「だったらテメーは、いただきますと言われたら、殺されたって構わないてェのか?」
「な、なんだと!?」

「いただきますって言えば、お前は喰われても文句ないってんだな?」
「そうは、言っておらん。わたしは、食べられる命に対する感謝をだな……」

「感謝だァ。いただきますって言葉は、単なる自己擁護(ようご)だ」
「どう言う、意味だ!?」

「いただきますって言えば、命を奪っているって罪も緩和されっからよ。便利な、言葉だぜ。自分の僅かに残った罪悪感までかき消せる、ご都合主義も極まった言葉(ワード)だ」

 宝城さんの話す題醐さんの姿に、聞き手側のボクたち全員が閉口した。

 前へ   目次   次へ 

一千年間引き篭もり男・第09章・20話

レーテー艦隊の消滅

「プレゲトーンめ、油断しおって。だがわたくしの艦隊は、敵に取り付けました」
 漆黒に蒼いラインの艦隊の旗艦で、小艦隊を率いる司令官の女性が吐き捨てる。

「この忘却のレーテーが、火星の魔女が艦を堕としてくれよう。旗艦をゼロ距離まで接近させ、敵艦に取り付きなさい」

 豊満な身体つきの女性は、青みがかった灰色の長髪に、鈍(にび)色の肌をしていた。
鼻筋の通った品のある顔に、翡翠(ひすい)色の瞳をしている。
黒に蒼いラインの制服とタイトスカートに、蒼いタイツを穿いていた。

「ニー・ケー中尉、突撃部隊の指揮はお任せ致します。直属のサブスタンサー小隊と、アーキテクターの部隊を展開させましょう」

「レーテー少尉、了解です。ヴェローナ少尉、ヴァクナ少尉、ヴィカポタ少尉、聞きましたね?」
 純白のショートヘアに褐色の肌、エメラルド色の瞳の少女が、純白のサブスタンサーのコックピット内で指示を出す。

「了解しております、ニー・ケー中尉」
「ネリ・オー、いつでも出せるわ」
「わたし達の戦果を、レーテー様に捧げて見せましょう」

 答えた3人の少女たちも、髪型は異なるものの純白の髪に褐色の肌をしていた。

 ニー・ケー中尉を含めた4人の少女は、胴体のみを覆う純白のタイトな宇宙服に、美しい装飾の施された黄金のコミュニケーションリングを首に巻いている。
黒い腕カバーと、同色のタイツを履いていた。

「ニー・ケー中尉、ヴィクトー・リア、出ます!」
 黄金の翼と純白のスカートを持った少女型サブスタンサーは、レーテー艦隊の旗艦から漆黒の宇宙へと飛び出す。

 ヴィクトー・リアは、本体は完全に純白であったが、機体の左右に大きな黄金の盾を装備していた。
左右の腰に黄金の剣を挿し、黄金の槍を構える。

「ヴェローナ少尉、ネリィ・オー、行きます!」
「ヴァクナ少尉、ネリィ・オー、出る!」
「ヴィカポタ少尉、ネリィ・オー、行くよ!」

 3人の少女たちが搭乗するネリィ・オーも、少女型のサブスタンサーだった。
僅かにヴィクトー・リアより小型だが、純白の身体に黄金の兵装を持っている。
ただ黄金の盾だけが、ラウンドシールドになっていた。

「アレが、クーヴァルバリアですか。気品のある、美しい艦ですね」
 ニー・ケー中尉が、ヴィクトー・リアの頭部カメラに、流線形の優雅な艦を捉える。

「ニー・ケー中尉! ゼロ時方向から、サブスタンサーが急速に……キャアアッ!」
 少女の悲鳴と同時に、1機のネリィ・オーが腰から分断された。

「ヴィカポタ少尉!?」
 慌てて踵(きびす)を返す、ヴィクトー・リア。

「ニー・ケー中尉、今度は真下から……アッ!」
 攻撃を避け切れず、股下から左胸にかけて斬り裂かれる、2機目のネリィ・オー。

「ヴァクナ少尉まで……敵は、そこまで手練れなのですか!」
 ヴィクトー・リアは、敵の影を追い駆けた。

「クッ、太陽が……これでは!」
 けれども敵影は、地球で見るより小さな太陽を背にする。

「敵を、見失いました。ヴェローナ少尉、油断しないで……」
「ニー・ケー中尉、レーテー様の艦がッ!!」
 残された1人の部下に言われ、母艦の方向を向くヴィクトー・リア。

「……ああ……助け……」
 漆黒に蒼いラインの艦隊旗艦が、大きなエネルギー弾の直撃を受けて、艦橋を吹き飛ばされた。
灼熱の真っ白な光に包まれ、瞬時に蒸発するレーテー少尉。

「レーテー少尉ッ!?」
 轟沈する母艦を前に、唖然とするしかな出来ないニー・ケー中尉。

「宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリア、レーテー艦隊を突破し離脱して行きます」
 唯一残されたネリィ・オーを駆る少女が、戦況を告げた。

「……了解です、ヴェローナ少尉」
 ヴィクトー・リアの周囲に、既に敵影は無い。

「2人は、まだ生きているようです。ヴァクナ少尉、ヴィカポタ少尉を回収し、艦隊を再編致します」
 艦隊司令官を失ったレーテー艦隊は、ニー・ケー中尉の指揮の元、残存兵力の再編を図った。

 前へ   目次   次へ