孤児院と3人のシスター
「サキカちゃんって、お風呂で首無し死体で発見されたコよね?」
「そうそう。孤児院から来たって言う」
「確か重蔵の次男の、隠し子だったんだよな」
観客たちが、第2の殺人事件で被害に遭った少女について話し始める。
マドルは薄暗くなった舞台から、様子をそっと眺めていた。
「2人暮らしのお母さんも死んじゃって、孤児院に入ったんじゃなかったかしら」
「じゃあスバルも、同じ孤児院からトアカの代役を確保したってコトか?」
「そこはまだ、判らないわよ。これから、その孤児院に向かうんだから」
ドーム会場に集まった観客たちの会話も落ち着いた頃、舞台に頼りないエンジン音が流れる。
「そう言えばお前、ハリカの殺された前日にも、孤児院に行ってたよな?」
警部の声が、言った。
「まあね。ハリカさんの生前、我輩はハリカさんを嗅俱螺(かぐら)家に残し、孤児院へと向かった。もちろん当時は、第2の殺人事件の被害者、渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)さんの素性を調べるために伺ったのだがね」
「警察としても、オレの部下を数名やったが、別に怪しいところは無かったとの報告だったぜ」
「我輩も、自分の目でそれを確かめたくてね」
「オレの部下の報告が、信じられ無ェってか?」
「人それぞれ、見え方が異なったりするモノさ。それにサキカさんは、他の2人の犠牲者とは違う」
「あ、どこがだ? 首を刎ねられ殺されちまったのは、同じに思えるが?」
「孤児院とは、素性も怪しい子供が、大勢暮らす場所だよ」
「殺された3人の少女の中で、サキカだけが素性がはっきりしないってコトか……」
「孤児院の教会が、見えて来たよ。院長はご高齢のお婆さんだケド、彼女の3人の娘たちが実質的な管理を任されている」
マドルが説明をしていると、頼りないエンジン音は次第に小さくなり、やがて聞えなくなった。
「ヤレヤレ、また来たの。懲りないねェ」
中年女性の声が、ドーム会場に響く。
「彼女は、細川 珠さん。教会のシスターで、今は教会や孤児院の管理をされている方だよ」
マドルは嫌味も気にせず、1方的にシスターを紹介した。
会場に、無邪気な子供たちの声が流れる。
舞台は墓場セットのままだったが、そこが孤児院である演出だった。
「こりゃまた、大勢の子供たちが居るモノですな」
「ウチは、母が慈善活動でやってますがね。それを良いコトに、子供を置き去りにする輩も大勢居るんですよ。大した寄付も無いから、昔は名家だったウチも、今じゃこの有り様さ」
「ウチとは、細川家のコトですな?」
「イヤ、アタシは細川の家に嫁いだんでね。ここは、明智の土地さ」
「オヤオヤ、警部補さん。またおいででしたか」
「遠路はるばるお越しになったって、なにも出て来やしませんよ」
また別の、2人の女性の声がした。
「申しワケありません。お邪魔させて貰ってます」
「オイ、マドル。もしかして、この方々も?」
「わたしは、小西 菊と申します。姉や妹共々、孤児院を営んでおりますの」
「アタシは、高山 妙(たえ)だよ。まったく、警察ってのもしつこいねェ」
「2人もシスターで、孤児院を切り盛りされているんだ」
「なるホド。これだけの子供の数だ。3人でも、大変でしょうに」
「仰る通りでして。昔は、人を雇っていたのですが……」
「それも今となっては、資金も底を尽いちまってね」
愚痴を零(こぼ)す、小西 菊と高山 妙。
「ところでアンタら、なんの用だい。聞きたいコトがあるんなら、さっさと聞いてくんな」
「珠姉さん、警察の方に失礼ですわ」
「菊姉こそ、上品ぶってんじゃ無いよ。どうせまた、あの隠し子のコトだろ?」
「残念ながら今日伺った理由は、渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)さんのコトでありません」
「だったら、なんだってんだい?」
「十数年前に、この孤児院から貰われて行った少女が居なかったか、お調べ願いたいのです」
マドルは、言った。
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