新たなる死の知らせ
重蔵の長女である昴瑠(すばる)に対する聞き取り調査を終え、舞台は再び、マドルと伯父である警部との会話に戻る。
「いくら聞き取りとは言え、余りな態度じゃないか、マドル」
警部の声が、不躾(ぶしつけ)極まりない姪に苦言を呈(てい)した。
「これでも、気を遣ったつもりだがね。彼女は、3年前に懐妊していたのだろ?」
「お前、そこまで聞くつもりだったのか!」
「答えてくれるのであればね」
「答えるハズが、無かろう」
「吾輩もそう考えたから、あれ以上の踏み込んだ質問は止めたのだよ」
悪びれるコトなく答える、マドル。
「スバルさんの懐妊と、今回の事件になにか関係があると言うのか?」
会場の観客たちの気持ちを、代弁する警部の声。
「それはまだ解らないケド、彼女のお腹に居たのは、1体誰との子だったのか……?」
「そりゃお前、夫である豊さんとの子に、決まっているじゃないか」
「そうかも知れない。でももし、そうじゃ無かったとしたら?」
クスリと笑いながら、観客席に問いかけるマドル。
「スバルさんのお腹の子って、確か死産だったんでしょ?」
「もしかすると、望まれない子だったとかか?」
「あッ、わたし、解っちゃったかも!」
様々な推察を繰り広げる、観客たち。
「キミの見解を、聴こうじゃないか」
再び久慈樹社長が、絡んで来た。
「そうですね。夫である豊さんの子でないとすると、ワタル氏との子の可能性もあります」
「彼らは、兄妹のハズだが……まあ、あり得る話か」
久慈樹社長は、あっさりと納得する。
「さて、マドル。重蔵氏の家族たちに対する聞き取りは、次男を除けば大方終わったな」
推理の時間は終わり、観客たちの視線が再び舞台へと移って行った。
「3男のワタル氏は亡くなってしまったし、聞きたいコトも多かったのにね」
残念がる、名探偵。
「長男は戦争に出兵して戦死し、許嫁も他の男と結婚してしまったとなると、重蔵氏の遺産を引き継ぐ権利のある人間も、減って来ている。現時点で、重蔵氏の遺産は次男のタケル氏の手に渡るのだろう?」
「そりゃお前。普通に考えれば、そうなるだろ?」
「弁護士の確認を、取って言ってるワケじゃないのかい」
「ま、まあな……」
「ヤレヤレだね。やはり1度、重蔵氏の遺言状を預かっていた弁護士にも、会ってみる必要があるかな」
墓場の舞台が、再び暗転する。
「吾輩はそれから、弁護士の事務所を何度か訪ねてみた。だが弁護士という職業は忙しいらしく、アポを取っても思ったように合うコトは出来なかったんだ」
「なにやってんだ。スマホで待ち合わせ場所を、知らせればイイだけだろ」
「スマホなんて、あるワケ無いでしょ」
「時代設定、わかってないんだから」
観客たちの言うように、スマホの存在しなかった時代。
人々の出会いは、現代よりも遥かに難しく不便だったに違いない。
「数日が過ぎ、吾輩の捜査も行き詰まっていた。そんな折、再び警部の部下が悲報を告げたんだ」
舞台に、慌ただしい足音が鳴り響いた。
「た、大変であります。伊鵞 武瑠(いが たける)氏が、出張先の上海(シャンハイ)のホテルで首を吊って死んでいるとの連絡が、たった今当局よりありました」
「な、なんだって。それは、本当か!?」
「ハ、ハイィ、本当であります!」
返事に特徴のある部下が、断言する。
「詳しい状況は、まだ判らないのですか?」
「え、ええ、マドル警部補。残念ながら調査も初期段階で、検死もまだのようでして」
「追って報告を待つ他、無いようだな」
「これで、重蔵氏の遺産継承権を持つ人間が、また1人減った……」
舞台で顎(あご)に指を当て、考え込むマドル。
「これで、重蔵の長男、次男、3男が揃って死んだ。継承権は、長女のスバルに移るってワケか」
舞台袖から舞台のマドルを観察しながら、久慈樹社長が言った。
「ええ。ですが現時点でも、マスターデュラハンが何者なのか、まったくわかりませんよ」
ボクは、正直な感想を述べた。
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