ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第42話

遺言状と封筒

「すまねェが、コイ……彼女は、事件の参考人でな。例の遺言状の、照会をしてェんだが」
 警部の野太い声が、言った。

 舞台には、美目麗しいドレス姿の少女が立っている。
先ほどまでは男装の麗人だった、神於繰 魔恕瘤(かみおくり マドル)と同一人物であるとは、まるで思えなかった。

「オイ、お前。解ってんだろうな。マスター・デュラハンをショッ引けねェお陰で、世間サマの風当たりが強まってんのをよ!」
「わ、解ってますって、署長。だからこうやって、参考人を呼んで……」

「参考人なんざ、いくら連れて来たって意味ないんだよ、警部。解ってんの?」
「その事件を解決するための、重要な参考人なんです。どうか、ご理解を……」

「チッ、行きな。だがよ、警部。お前に残された時間が僅かだってコトも、肝に銘じて置くんだな」
 警察署内の、上司と部下の重苦しいやり取りが、声でだけではあるが会場に流される。

「イヤな上司ってのは、いつの時代にも居るんだな」
「今、ウチの上司の顔が浮かんだわ」
 観客たちは、警部の立場に自身を重ねていた。

「吾輩は、着なれないドレス姿のたまま、取調室へと通された。最低限の機能しか持たない机と椅子だけの部屋でしばらく待っていると、警部が入って来たのだよ」

「コイツが、お前が拝みたがっていた遺言状と封筒だ。ウチの鑑識でも散々調べたが、筆跡も含めて伊鵞 兎愛香(いが トアカ)のモノと一致している」

「なる程。つまり2通目の遺言状も、トアカさんが書いたモノだと?」
「ああ。だが誰かが、彼女の筆跡を高い精度で真似て書いた場合……」

「本物と断定できるとまでは、言い切れないのだね」
「ああ。筆跡鑑定ってのは、そんなモンだ」
 警部の言葉に、会場の観客たちが反応する。

「筆跡鑑定って、もっと高い精度が出るんじゃ無いのか?」
「昔は、コンピューターも無かったのよ。今と違って、精度も低かったんじゃない」
「そっか。そう言や、舞台はかなり昔の設定だったな」

 舞台では、明治や大正時代に流行ったような、西洋風のドレス姿のマドルが、観客たちの会話が終わるのを待っていた。

「どうだ、マドル。なにか気になった点とか、気付いたコトとかあるか?」

「そうだね。現時点の吾輩の見解としては、2通の遺言状については、トアカさん本人が書いたモノで間違いないと思うよ」
「含みのある、言い方だな。なにが、言いたい?」

「問題は、1通目の遺言状が入っていた、封筒の方だよ。封筒には、2通目の遺言状の在り処が書かれていた。素人である吾輩が見ても、この筆跡は明らかにトアカさんのモノとは異なる」

「ああ。だがソイツは、重蔵氏の筆跡と一致している。かなり荒れた字だが、まだ筆を握れた頃に書いたモノだろうぜ」

「なる程。病が進む前の重蔵氏が、封筒の裏に書いた……と」
「恐らくな。だがこっちも、誰かが似せて書いた可能性も捨て切れねェがよ」

「この封筒の文字を、重蔵氏が書いたと仮定したとしよう。重蔵氏はかなり前から、遺言状を2通遺す予定だったコトになる」

「ああ。しかも遺産を遺す相手ってのが、1人は身内ではあるモノの、もう1人は息子の孤児院暮らしの隠し子だからな。不自然ではあるぜ」

「蝋で封がされていた(シーリング・スタンプ)とは言え、誰かが何らかの細工をした可能性はあるね」
 遺言状に目を落とすフリをする、マドル。

「竹崎弁護士も、何らかの不信感を抱いていたのかもな」
「吾輩も、竹崎弁護士の見立ては当たっていると思うよ。遺言状には、何らかの偽装がされている」
「例えば、どんなだ?」

「そこまでは判らないケド、2通の遺言状とそれが収まっていた封筒は、別に考えた方がイイと思うよ」
 マドルは、意味深げな言葉を残した。

 前へ   目次   次へ