ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第43話

シャワー室の真実

 舞台に、車の頼りないエンジン音が鳴り響く。

「お前よォ。寄りによって、そんな高いドレス買いやがって。オレの1ヶ月分の給料、余裕で越えてるぞ!」
 警部の太い声が、愚痴を言った。

「お陰で、誰も吾輩と気付かなかったじゃないか。館に配属されていた捜査員も、けっこう居たのにも関わらず……実に痛快だったさ」
 舞台で微笑む、マドル。

「まあ、馬子にも衣裳って、言うからな。少しは胸の方も、成長……って、イテテテテ。お前、運転中に引っ張んな!?」
 警部の慌てた声と共に、エンジン音も右往左往していた。

「それでだ、マドル。遺言状を見て、お前的に結論は出たのか?」

「まだ結論を出すのは、早計だよ。でも、今回の事件は、最初の犠牲者であるトアカさんが殺される、もっと以前から計画されていたのかも知れない」

「もっと以前ってのは、具体的にどれくらい前の話だ?」
「少なくとも、10年は前……重蔵氏の手が、まだ文字を書けた頃の話だよ」

「だとすると、マスター・デュラハンってのは、それなりの年齢の人間ってコトになるぜ」
 警部の声が、問いかける。

「警部は、殺された少女たちの誰かだと思っていたのかい?」
「あ、あくまで、可能性としてだがな」

「吾輩もその可能性は、大いにあると思ってるよ」
「な、なんだと!?」

「吾輩は、レインコートの人物の中身は、小柄な少女の可能性が高いと言った」
「ああ。だからオレは、マスター・デュラハンの正体が、屋敷に働くメイドか、さもなくば殺された少女の誰かだと推理したぜ」

「警部の見立ては、当たっていると思うよ。少なくとも、吾輩をシャワー室で襲ったのは、彼女たちのウチの誰かだ」
「オイオイ。あの時点で、生きてる可能性のある少女っつったら……」

「ああ。恐らく、嗅俱螺 墓鈴架(かぐら ハリカ)さんだろう」
 マドルは、言った。

「お前を襲ったのがハリカなら、マスター・デュラハンも彼女で間違い無ェだろ?」
 熱気を帯びる、警部の声。

「今回の事件は、そこまで単純では無いよ、警部。ハリカさんは、実行犯の1人に過ぎない」
「実行犯……だと!?」

「マスター・デュラハン殺人事件は、実行犯と犯行を計画した人間が別に存在すると、吾輩は考えているのだよ」

「つまり……実行犯の少女の他に、犯行を計画した人間が居るってのか?」
「ああ。現に吾輩を襲った可能性のあるハリカさんは、自室にて無残な死体となって発見されている」

「別の誰かに、殺されちまったのか……」
「現時点では、あくまで吾輩の推測に過ぎないケドね」
「そんじゃ、ハリカの護衛に付けた警備員を眠らせたのも、ハリカを殺した犯人ってコトだな」

「イヤ。彼女たちを眠らせたのは、ハリカさん自身だよ、警部」
「な、なんだって!?」

「警備員たちも、バカじゃない。既に渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)さんが、浴槽で眠らされ殺されているんだ。簡単に、睡眠薬の入った紅茶など、呑むモノでは無いさ」
「……そ、それじゃあ?」

「頭に血の登った警部は、確認を怠っていた様だがね。警備の2人は、紅茶はハリカさんに勧められたと言っていたよ。そして紅茶は、最初に彼女自身が飲んだともね」

「だとするとハリカは、自分の護衛2人を眠らせた後、お前を襲ったってコトか?」
「2人を前に部屋を出るのは、怪しまれるからね。それから彼女は、レインコートをドレスの大きなスカートにでも忍ばせ、吾輩たちの居た部屋の衣装ダンスにでも隠れた」

「そんで時を待って、お前が深夜にシャワーを浴びているのを狙った……深夜に警備の2人が寝かされていても、不審がるヤツは居ねェからな」

「ハリカさんは、シャワーを浴びる吾輩に、摺(す)りガラス越しにレインコート姿で現れ、印象付けを行った。そして、吾輩を殺そうとした」

「だが結果的に、殺人は未遂に終わったんだな?」
「イヤ、ハリカさんが吾輩を殺すのを、躊躇(ためら)ったんだ」
「な、なんだと?」

「吾輩は彼女と、多くの時間を共にした。彼女は、優しい人だよ。だから、吾輩の脚をガラスで傷付け、死ぬかどうか曖昧(あいまい)なカタチで犯行を終わらせた……」

 舞台のマドルは、哀しい顔をしていた。

 前へ   目次   次へ