ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第65話

遺産の相続権

「マドル。タケル氏の死因は、自殺だと思うか?」
 警部の声が、質問した。

「現時点では、確定的なコトはなにも言えないよ。でもあえて言うのなら、自殺である状況証拠は揃っている。何故なら彼の会社は……」

「破産寸前だったんだよな。上海(シャンハイ)に行ったのも、現地の取引先に借金の期限を先伸ばしにしてくれるよう、頼み込みに行ったって話だ。正直、オレも自殺じゃないかとは思っている」

「だけどタケル氏は、2つの遺言状が存在しなかった場合、重蔵氏の遺産を受け取る最有力候補だった可能性が高いのも事実だよ」
「完全に自殺と、決め打ちするワケにも行かないってか」

 舞台は明るくなり、マドルは再び墓場のステージを行ったり来たりする。

「吾輩たちは、タケル氏の妻である椿姫(つばき)夫人と2人の娘に、タケル氏の死を伝えた。3人は泣き崩れてパニックを起こしてしまい、しばらくは聞き取りすら不可能な状況だった」

「どうやら、夫人や2人の娘が犯人って可能性は低そうだな」
「そうね。でも、タケル氏ってホントに、自殺だったのかしら?」
「オレは、誰かに殺された気がするんだが……」

 思い思いに推理をし合う、観客たち。

「吾輩たちは、上海からの報告を待った。けれども報告より先に、ある人物が館を訪ねて来たのだよ」
 マドルの台詞と同時にドアがノックされ、開く効果音が流される。

「わたくし、重蔵氏の顧問弁護士をしておりました、竹崎 影家(たけざき かげいえ)と申します。マドル警部補には、わたくしが留守の間にご足労いただき、誠に申しワケございません」
 新たに中年男性の声が、会場に響いた。

「けっこう、オッサンの声だな」
「もっと、若いのかと思ってた」
「竹崎弁護士が、犯人って可能性もあるのよね」

 声だけの出演に、様々なイメージを膨らませていた観客たちが、感想を言い合う。

「いえ。わざわざ足を運んでいただいて、恐縮です」
 丁寧に頭を下げる、マドル。

「実は、本日伺ったのは、重蔵氏の遺産と遺言状についてなのです」
「まあ立ち話もなんですから、奥へどうぞ」
「警部。ココは貴方の館では、無いのだよ」

 マドルのツッコミに、会場から笑い声が漏(も)れた。

「実は吾輩が事務所に伺ったのも、重蔵氏の遺産の相続準が気になったからなのです。率直に言って、タケル氏が重蔵氏の遺産を受け継ぐ可能性は、あったのですか?」

「オイオイ、マドル。遺言状に書かれていた2人の少女が死に、長男も亡くなっているんだぞ。順当に言って……」

「ございませんでした……」
 警部の大きな声を遮(さえぎ)るように、竹崎弁護士がポツリと言った。

「ええッ、今なんと?」
「伊鵞 武瑠(いが たける)氏に、重蔵氏の遺産を受け取る資格は無かったのです」

「なんだって、そんなコトに?」
 困惑気味な、警部の声。

「タケル氏は、生前の重蔵氏から多額の融資を受けておりました」
「つまりは実の親から、借金をしていたコトになるね」
 マドルが、言った。

「私人、公人双方で、融資を受けていたものの、タケル氏の事業の業績は悪化の一途を辿り、ついには重蔵氏も遺産相続から排除されるとのコトに……」

「つまりタケル氏は、生前に重蔵氏の遺産を受け取っていたってコトか」
「生前贈与ってヤツだね。つまり、タケル氏が受け取るべき遺産は、存在しなかったコトになる」

「ち、因(ちな)みにだが、タケル氏には妻と、2人の娘が居る」
「残念ながら、タケル氏は奥様方の相続分にまで、手を付けていたようでして」

「ヤレヤレだぜ。タケル氏の会社ってのは、そこまで末期状態だったのかよ。こりゃ、上海からの報告を待つまでも無く、タケル氏の死は自殺で決まりだな」

「早計だよ、警部。ところで、弁護士。そうなると現状、遺産を受け取る最優先候補は、重蔵氏の長女である伊鵞 昴瑠(いが すばる)さんで、よろしいでしょうか?」

「いえ、違います」
「な、なんだってェ!?」
 警部の、野太い大声が響く。

「スバル夫人は、遺産の相続権を放棄なさいました」
 竹崎弁護士は、落ち着いた声で言った。

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