ラウンジでの白昼夢
「それにしたって、大したモンだぜ。シュガールとか言う謎のサブスタンサーまで、倒しちまうとァよ。オレの見込んだ以上の働きをしてくれた」
ドス・サントスさんが、酒瓶を何本か空にし、上機嫌になりながら言った。
「そんで、奪還したセノーテ予定地は、なんとかなったのかよ?」
プリズナーが、キャラメル色のソファーに寝そべりながら、問いかける。
「オレがこんな場所(ラウンジ)で、昼間からテキーラあおってんだ。部下たちだけで、なんとかなるホドに順調だぜ」
少しだけ、夢の中で死んだドス・サントスの雰囲気に近づく、現世のドス・サントスさん。
「ケッ、そうかよ。で、やっぱ襲って来たサブスタンサーは、ヨーロッパのタイプだったのか?」
「少なくとも、ベースとなる機体はそのようですね」
ドス・サントスさんの替わりに質問に答える、メルクリウスさん。
「ライフルを持った機体は、改造されていたってコトですか?」
「ええ、ベースはエル・マタドールと呼ばれる機体なんですがね。ほぼ全身がチューンナップされていて、別の機体と言っていいくらいですよ」
「問題は、誰が改造したかってコトですね」
「そんなモン、時の魔女に決まってんじゃねェか」
プリズナーが、時の魔女の名を出した途端、静まり返るラウンジ。
天井で周る、シーリングファンの風切り音が聞える。
「アンタらの会話に出てくる、時の魔女ってのは一体何者なんだ?」
部屋の主であるドス・サントスさんが、ボクたちに質問した。
「残念ながらボクたちにも、正体は解らないんです。メルクリウスさんの方が、まだ詳しいかと……」
ボクは、実際に時の魔女との交戦経験のある、優男に話を振った。
「そい言や、お前らディー・コンセンテスは、何百年か前に時の魔女と戦ってるんだよな?」
「そりゃホントかい、大使殿?」
「ええ、まあ。ですがボクも、時の魔女についてほとんど解っていないと言うのが、本音でして」
「逆に言えば、少しは解ってるってコトだろ。なにが、解ってる?」
「そうですね。まずは時空を超越した技術を有している、と言ったところでしょうか?」
「そりゃ、なんだ。言ってる意味が、理解できないんだが?」
酒を飲むのを止め、グラスに氷を入れ水を注ぐドス・サントスさん。
「子供染みた言い方をすれば、ワープですよ。時の魔女はその配下の機体を、ワープによって直接送り込んで来るのです」
「火星のオリュンポス山に築かれたアクロポリスの街を壊滅させたのも、街の上空にいきなり現れた、無数のキューブ状の機体でした」
ボクも、思い出したくもない火星での惨状を語る。
「なるホドな。シュガールにしろ、ヨーロッパのマスケッター(銃士)にしろ、どこからともなくいきなり現れたって言ってやがったな」
ドス・サントスさんは、冷たい水を一気に飲み干して酔いを醒ます。
「そいつァ、厄介な話だぜ。だが、ワープ技術を持っているんなら、核爆弾でも直接ワープさせて起爆させた方が、手っ取り早くも思えるが」
「そればかりは、本人に直接会って聞く他ありませんね」
メルクリウスさんは、南国フルーツがたくさん盛られたカクテルを飲みながら答えた。
「他に、なにか解ってるコトは無いのかい?」
「呼び出された機体には、ワープ機能は恐らく備わっていないってのはありますね」
今までの体験を元に、推察するボク。
「宇宙斗艦長の言われる通り、火星で呼び出された多数の機体は、そのまま宇宙の何処かへと飛び立って行きました」
「その前に交戦したタコみてェな戦艦ですら、ワープして離脱するコトは無かったぜ」
メルクリウスさんとプリズナーも、ボクの説を支持し補完してくれた。
「要するに、どこかにワープ装置みてェなのがあって、それを通って来るって考えた方が自然か?」
「その可能性が高いとしか、言えませんね……」
空になったグラスを置き、ため息を吐き出すメルクリウスさん。
「他にも、死人を生き返らせるってのもあるぜ。火星圏での艦隊戦で死んだハズのマーズが、生き返って火星でふんぞり返ってやがる」
「へえ、そうかい。だが今の時代、死人が生き返るってのも、珍しいコトじゃねェだろ?」
酔いの醒めた、ドス・サントスさんが言った。
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