3人の少女たち
ロランが消息を絶ったと言う情報は、キャプテンである雪峰を経由してデッドエンド・ボーイズのメンバーたちへと拡散され、かなりのスピードで伝わった。
「ロランさんが、駅前のビジネスホテルから消えたって、ホントか?」
紅華が黒浪を引き連れてやって来て、ファミレスの大型席に座る。
席にはすでに、大勢の男たちが待ち構えており、女性も数人混じっていた。
「アン、亜紗梨(あさり)。なんで彼女まで、ここに居るんだよ」
「なんでじゃないだろう、紅華。全員で周りに群がっていれば、怪しまれて当然だ」
ボブカットの女性的な顔立ちの男が、ピンク色の髪のチャラついた男に文句を言う。
「奈央ちゃんとのデートを、ジャマしたのを根に持ってんのか?」
「そ、そうじゃない。別にデートでも、なかったワケだからな……」
「ま、今のところ、一馬の方に分があるかもな、奈央ちゃん」
紅華は、話し相手を亜紗梨から、栗毛の少女に変更した。
「そ、そんなコトないです。アイツはただの幼馴染みで、手のかかる弟みたいなモノですから」
「その手のかかる弟のために、顔出してくれてんだろ?」
「し、静岡に行ったまま、まだ帰って来ませんからね。流石に心配と言うか……」
「すまないな。学校にはキミから、体調不良で休むと連絡は入れてもらっているが」
「流石にこれ以上となると、学業にも支障をきたす恐れがありますね」
中央に陣取った雪峰と柴芭が、顔を見合わせる。
「学業に関しては、天才のお前ら2人が集中して教えりゃ、なんとかなるだろ。それにしても今日は、千鳥ちゃんも来てんだ。良かったな、クロ」
「ち、千鳥さん。久しぶりっス」
紅華に軽いヒジ打ちを貰った黒浪が、日焼けした顔を赤らめながら言った。
「うん。だってボク達、一応はデッドエンド・ボーイズのマネージャーだからね。ね、後輩ちゃん」
ボーイッシュな少女は、隣に座る少女に顔を向ける。
「……ハ、ハア。なにがなんだか解りませんが、一馬先パイが静岡に行っちゃってるんですよね?」
ポニーテールの、勝気そうな少女が答えた。
「だ、誰かと思えば、もしかして剣道のお面被ってた、飛び入りマネージャーか?」
「やっと気付いたか。剣道のお面なんて、大して顔を隠す効果ないんだから、わかるだろう」
「え、そうなの。千鳥さん、気付いた?」
「うん。ボクは、すぐに気付いたよ。だって可愛い、後輩ちゃんだからね」
後輩を胸元にたぐり寄せ、顔をスリスリする千鳥。
「や、止めてください、千鳥先パイ」
後輩は、すり着く先輩を引き剥がす。
「じ、自己紹介がまだでしたね。アタシ、千葉 沙鳴(サナ)と言います」
「サナちゃんはね。まだ中学生なんだよ。御剣くんや奈央ちゃんの通ってる高校の、付属中学に通ってるんだって」
「一馬の学校って、こないだ練習試合やったトコだよな」
「そう言やフォワードに、千葉ってヤツも居たケド、もしかして?」
「はい。兄の、千葉 蹴策(しゅうさく)です」
「やっぱそっか。一馬がちゃんとサッカー部に入れてたら、オレらじゃなくサナちゃんの兄貴と、チームメイトになるハズだったんだよな」
「いい選手、けっこう居たよな」
「ああ。チームとしては、まとまってなかったケドよ」
席に着いた黒浪と紅華は、注文をオーダーする。
「話が逸れたが、本題に入るぞ。ロランさんが、宿泊していた駅前のビジネスホテルから姿を消した」
雪峰キャプテンが、プランを修正した。
「金刺くんと杜都くんが、待ち合わせ場所に行ったのですが、一向に姿をあらわさなかったそうでね。宿泊先のホテルに赴(おもむ)くと、チェックアウトした後だったとのコトです」
「マジかよ、柴芭。けっこう事件の核心に迫れたかもってのに、ロランさんはなに考えてんだ」
「恐らく理由は、それだ」
「あ、なにがだよ、雪峰」
「ロランさんも、事件の核心に迫ったのだろう」
雪峰 顕家(あきいえ)は、言った。
前へ | 目次 | 次へ |