光学ドライブ付きノートパソコン
「い、今からですか!?」
キョトンとした顔で、奈央が言った。
「アハハ。直ぐ済むから、少しだけ待っててくれないか」
亜紗梨(あさり)は光学メディアを持って席を立つと、テーブルに注文した料理が運ばれて来る。
「アラビアータと、パンケーキになります。ご注文は、お揃いでしょうか?」
「……へ、あ、はい」
女性店員からの問いかけに、栗毛の少女は我に返って応える。
「では、ごゆっくり下さい」
マニュアル通りの所作を完璧にこなした店員は、他の仕事へと移って行った。
「やあ。待たせたね、板額(ばんがく)くん」
手ぶらになった、亜紗梨 義遠(よしとお)が戻って来て、板額 奈央の前の席に座る。
「もう、渡してきたんですか」
「ま、まあね。それより、冷めないうちに食べよう」
「は、はあ……」
訝(いぶか)し気な顔をしながらも、奈央はパンケーキを小さく切って口に入れた。
その後ろの席では、薄ブチの眼鏡を掛けた色白の男が、ノートパソコンに光学メディアの円盤を入れて、再生を始める。
「どうだ、雪峰。再生は、できそうか?」
「問題ないな、紅華。コーデックも、ちゃんと対応させている」
ピンク色の髪の男に問いかけられた雪峰は、メガネの中央を中指で上げながら答えた。
「それにしても今時、光学ドライブが備わっているノートパソコンも珍しいですね」
「まあな、柴芭」
タロットカードを持った男の問いに、短く答える雪峰。
「え、そうなのか。オレさま、普通だと思ってたぞ」
黒く日焼けしたヤンチャそうな男が、イチゴのタルトを食べながら言った。
「チョイ前まではな。せやケド今や、ストリーミング動画全盛の時代や。いちいち録画せんでも、サブスク契約して動画見るよって。せやからノートパソコンも、光学ドライブ付いてないんが主流や」
金髪ドレッドヘアの男が、うどんをすすりながら答える。
「へー、イソギンチャクって、パソコン詳しいんだな」
「誰がイソギンチャクや、駄犬が。これも千鳥のせいやで。アイツ、マジでガジェオタやさかいな。お陰でヘンな知識が、身についてもうたわ」
「ち、ちち、千鳥さんに、教わったのか!?」
「教わったっちゅうか、洗脳に近いで。コトあるごとに、パソコンやカメラのマニアックな話を延々とするんや、アイツ」
「じ、自慢か。自慢なのか、イソギンチャク!?」
「せやから、違う言うてるやろ!」
「黒浪、金刺、静かにしろ。他の客の迷惑になる」
雪峰が、キャプテンらしくピシャリと締めた。
「それでどうです。番組の中で有効なモノは、ありそうですか?」
柴芭が、コーヒーを口に運びながら問いかける。
「残念だがこの番組自体、オレは見たコトが無い。紅華や黒浪に、見て貰った方が早いかも知れん」
雪峰はノートパソコンを、2人が見えるよに向きを変えた。
「どれどれ……うわ、懐かしいな」
「あったあった、こんなコーナー」
「お2人とも、番組の感想は後にしてくれませんか。まずは、ロランの姉が映っているモノを、探し出さねばなりません」
「そうだな。今見てるのは、初期らヘンのモノだ。アイドルが正体を隠してってのは、もう少し後から始まって人気になったハズだぜ」
「なるホドな。ならば3ヵ月ホド空いたモノを、再生してみるか」
雪峰が、ノートパソコンのトラックパットを、繊細な指で操作する。
「オッ、これだよ、これ。アイドルが3人、出てるジャン」
「この中の誰かが、ロランのお姉さんな可能性があるワケか?」
ノートパソコンに映された番組映像を、食い入るように見る黒浪と紅華。
「ネットに情報が、上がってました。どうやら1番左の方が、ロラン氏の姉のようですね」
柴芭が、自分のスマホの画像と、ノートパソコンの映像を見比べながら言った。
「このコ、めっちゃ可愛いと思ってたんだよな」
「そっか、そっか。千鳥さんに、報告しといてやるよ」
「うわァ、バカ。止めろって、ピンク頭!」
「ですが彼女は、もうこの世界には居ないのですよ……」
占い魔術師がそう告げると、2人は自然と口を閉ざした。
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