諜報活動
夜が訪れ、盛り場へと変貌したカフェには、酒の香りが漂う。
中庭には小さなステージがあって、音楽を奏でるマー・メイディアたちのムーディーな楽曲に合わせて、美しいダンサーのマー・メイディアたちが踊り始めた。
「大きな漁村みてェなカル・タギアに比べると、オケ・アニスは文化的に進んでんな。建物も芸術的だし、その中身も先鋭的だぜ」
「おい、ベリュトス。そんなコトより今は、彼女たちの観察が先だろう」
キティオンがアゴで、観察対象のアイボリーのドレスのマー・メイディアを指し示す。
「そりゃそうだがよ。ここからじゃ、音楽がジャマして声も聞こえなくなったぞ」
「姉上ならば、このような任務は得意であったのだがな」
バルガ王のお傍(そば)仕えであった亡き姉を思い出し、俯(うつむ)くキティオン。
「落ち込むなって。お前には、バカ力って取り得があるだろ」
「な、なんだと!」
「ま、オレには人の口の動きを読むなんて出来ねェが、やりようはあるさ」
そうこうしているウチに、2人のテーブルに注文した料理とカクテルが運ばれてきた。
「すみません。向かいの席の方々は、よく来られるのですか?」
ベリュトスが、料理を運んできた中年男性のマー・メイディアに問いかける。
「お客さんたち、旅のお方……観光かな?」
「はい、カル・タギアから来ました。オケ・アニスは、ウワサに違わない美しい街ですね」
「そいつァ、どうも」
気を良くしたマー・メイディアは、口のチャックを緩めた。
「ええ、常連さんですよ。このヘンじゃ、誰でも知ってる女王陛下の親衛隊の方々でさァ。中央の白いドレスの方が、隊長のエレクトラさんですよ。部下思いの、良い方ですぜ」
アイボリーを白と評したマー・メイディアは、料理を並べると忙しそうに立ち去る。
「エレクトラ……か。とりあえず、名前は解ったぜ」
「だが、それだけだ」
「今度は、お前の番だ。あそこに、男のマー・メイディアが3人座っているテーブルがあるだろう」
「ずいぶんと、顔が真っ赤だな。で、それがどうした?」
「キティ。お前が行って、色仕掛けで情報を聞き出して来てくれ」
幼馴染みのあまりの提案に、目が点になるキティオン。
「ハアッ、わたしが色仕掛けなんて、できるワケがないだろ!」
「大丈夫さ。今のお前なら、絶対できるって」
紫色のドレスを着た少女に、ベリュトスは言い聞かせた。
「し、仕方あるまい。これも、情報を得るという任務のためだ」
キティオンは、男たちの座る4人掛けのテーブルへと移動する。
「ここ、空いているか?」
1つだけ主を見つけられていない、椅子を指さした。
「オ、姉ちゃん。どこの出身だい?」
「イイ女じゃねェか。エレクトラさんには、負けるケドよ」
「酒や料理なら、おごるぜ。好きなモン、注文しな」
顔を真っ赤にした若い男のマー・メイディアたちは、キティオンを相手に虚勢を張る。
「そうか。ならば遠慮なく、注文させて貰うぞ」
「マジで遠慮なく、注文するじゃねえか。アンタ、名前……」
「キティオンだ。カル・タギアの出身で、観光目的で来た。ところでお前たちは、わたしよりもあの女に興味があるのだろう?」
「ま、まあ、そうなんだがよ。気を悪くすんなって」
「アンタだって、十分にイイ女になれる素質あるぜ」
「ホラ、もっと酒を飲め」
「イヤ、これはわたしからのおごりだ。豪快な飲みっぷりを、見せてくれないか?」
巻貝の貝殻で造られた大量のジョッキを前に、キティオンが言った。
「い、イイのかい。悪いな」
「そんじゃ、遠慮なく飲ませてもらうぜ」
「誰が1番の飲みっぷりか、勝負だ」
テーブル狭しと乗ったジョッキが、見る見る空になって行く。
若いマー・メイディアたちは互いに競い合い、しばらくすると何でも聞き出せる状態になっていた。
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