幼馴染みの説得
「ロランの姉が出演していた、深夜バラエティについてはなにかわかったか?」
倉崎さんが、ノートパソコンの画面上に付いてるカメラに向って言った。
「みんなの交友関係を当たってもらってますが、今のところ色よい返事はありませんね」
「そうか。やはりその線は、厳しいのかもな」
雪峰さんの返答に、倉崎さんが顔をしかめている。
「深夜番組の線を、追っていたのか。オレも何度か、ロランのヤツに聞かれたよ」
「深夜……ば、ばん?」
ボクも少しだけ慣れて来たのか、オリビさんにも話せた。
「ロランの姉が出演していた、深夜帯に放送していたバラエティ番組でね。見つけられれば事件のヒントにはなるかもだが、ネットを探しても動画は出回っていないんだ」
「アイドルたちが正体を隠してバイトとして企業に潜入し、最後に正体をバラすという内容らしい。一馬、お前知ってたりしないよな?」
倉崎さんの質問に、ボクは顔を縦に振った。
「ン、どっちなんだ。まさか、知ってるワケないよな?」
「知ってる……奈央が、撮ってた」
相手が倉崎さんだと、まあまあ普通に喋れる。
「ナオ……最初に会ったときにいた、女のコか?」
「そう」
「そのコと、連絡は取れるか?」
「スマホ、あるから……」
ボクはスマホを取り出して、数少ない連絡先から奈央を選択する。
「あッ、カーくん!」
スマホから、いきなり甲高い声が響いた。
「チョット、どこほっつき歩いてんのよ。なんで静岡なんかに行っちゃったワケ!」
そう言えば昨日電話して、途中で切ったままだったコトを思い出す。
「ひょっとして、まだ静岡に居るの。コンビニのATMでお金降ろして、さっさと帰って来なさいって言ったでしょ。学校までサボっちゃって、どうする気なのよ!」
「あのさ、奈央……」
「なァに。もしかしてATMの使い方が、わからないとか?」
「そうじゃなくて……」
「だったら、なによ。言いたいコトがあったら、ハッキリ言ってよね」
知らない人の前では話せなくなるボクも、奈央の前では普通に喋れる。
でも今は、オリビさんも居るから、普段のようには行かないんだ。
「昔深夜にやってた、バラエティあるじゃん。アイドルが企業に入り込むヤツ」
ボクは部屋の隅っこに行って、ヒソヒソ声で説明する。
「ああ、あったわね。去年だったかしら。いきなり打ち切りに、なったヤツでしょ」
「奈央、その番組録画してたよね?」
「うん。それがどうしたの?」
「その録画って、まだ残ってる?」
「ウチのレコーダーは、8テラの大容量だからね。消すのがメンドいから録画しっぱなしだし、タブン残ってると思うケド……一体、なんの関係があるワケ?」
「ホントか。番組は、残ってるんだな」
「これは朗報じゃないか。さっそく雪峰に話して、誰かを向かわせよう」
ボクの背中に、ロランさんと倉崎さんは張り付いていた。
「チョ……どう言うコト、カーくん。他に誰かいるの?」
「実は、倉崎さんとオリビさんが……」
「一馬、オレに替わってくれ」
ボクはスマホを、倉崎さんに渡す。
「いきなりで、申し訳ない。オレは、倉崎 世叛と言うモノだ」
「ああッ、アナタがカーくんを、静岡まで連れ去ったのね!」
「イヤ、違う。少し話を、聞いてくれないか」
奈央を納得させるまで、倉崎さんとオリビさんの2人がかりですら、10分もかかかる。
「よ~するに、ロランって人のお姉さんが、出演されてた番組の録画をしているかが、知りたいのね」
「そ、そうだ。やっとわかってくれたか」
「でも今は学校だし、確認できるのは帰宅した後よ」
「それで構わないが、オレはこれから関東で試合があるからな。雪峰、あとを任せていいか?」
「ええ、引き継がせて貰います」
パソコンの画面に映った、雪峰さんが言った。
「スマンな、オリビ。もうソロソロ、出ないと列車に間に合わないんだ」
「いえいえ。こちらこそロランに協力をしてくれて、感謝します」
倉崎さんは、大きなスポーツバックを肩にかけ、慌ただしく出て行った。
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