カズマの正体
「フルミネスパーダMIEと言い、1FCウィッセンシャフトGIFUと言い、とても地域リーグ2部の戦力とは思えない。この2チームが、1位2位抜けする公算はかなり高いだろう」
キャプテンの、ユキミネが言った。
「ってか、雪峰。まだ紹介されてないチームが、もう1チーム残ってるだろ」
「しかも、サッカー王国静岡のチームですからね。どれ程の戦力を揃えてるか、見当も付きませんよ」
クレハナとシバが、ため息交じりに嘆く。
ロランの所属するチームの紹介は、刻一刻と迫っていた。
「な、なあ。確かに日高さんのチームは、どれもスゴイメンバーが揃っていると思う。だからこそ今は、練習が必要なんじゃないか?」
ロランは、思い切って口を開く。
けれども反対に、ロランを一馬だと思い込んでいるデッドエンド・ボーイズのメンバーは、全員が押し黙ってしまった。
「な、なあ。今日の一馬って、やけに積極的に喋るよな?」
「それ以前に、普段は殆ど喋らないであります」
クロナミとモリトが、不審な目でロランを見ている。
「イヤ、一馬の意見も最もだ。こうしてテレビを眺めていたところで、ウチが強くなるワケでも無いからな。もちろん、相手が弱くなるハズも無い」
「そりゃそうっスケドね、倉崎さん。流石にどう足掻いたって、戦力差が有りすぎでしょう?」
「雪峰、お前はどう思う?」
「そうですね。残念ですが、紅華の意見は正しいかと……」
チームキャプテンに意見を聞いた倉崎 世叛は、ロランの肩から腕を外し立ち上がった。
「オレは、そうは思わない。確かに現時点で、お前たちは未完成な高校生だ。だが今年のシーズン終わりには、彼らと戦えるだけの選手に成長していると、オレは確信している」
チームオーナーは、高らかに宣言する。
「買いかぶり過ぎじゃないっスか、倉崎さん。オレのドリブルだって、高校生レベルを相手でもけっこう止められてるんスよ。紹介された2チームは、それより戦力が上なのは明らかなワケで」
「紅華、それはお前が、自分のポテンシャルに気付いていないからだ」
「オレの……ポテンシャル?」
倉崎 世叛に言われ、言葉を詰まらせるクレハナ。
「紅華だけじゃない。黒浪のスピードも、雪峰の頭脳も、杜都のパワーも、プロ選手として完全に活かせているワケじゃない。オレから見れば、まだ半分くらいの能力しか出せていないんだ」
「倉崎の、言う通りね」
すると応接室に、太ったオジサンが入って来た。
「さっさと外出るよ。これから、みっちりシゴいてあげるね」
「ゲゲ、セルディオス監督。今日は休暇なんじゃ?」
「なに甘えてるね、クロ。脚は、治ったハズね」
「ま、まあな。リハビリがてら、いっちょやるか!」
クロナミは一瞬で、ヤル気になっている。
「しゃ~ない。確かにこんな凄いチームを見せられちゃ、しか無ェか!」
「そうでありますな。プロとして戦場に赴くなら、恥ずかしい試合はできないであります」
「では監督。さっそく、練習を開始しましょう」
「了解ね、雪峰。海馬たちは、もう河川敷に行ってるね」
セルディオス監督は、椅子には座らずそのまま部屋を出た。
選手たちも、気合を入れて応接室を後にする。
「悪いんだが、一馬。お前は、残ってくれ」
「え、なんでですか……?」
ロランは、冷やりとした。
「まあワケは、お前自身が一番解っているんじゃないか」
空になった応接室に、ロランと倉崎だけが残される。
「流石に……ですか?」
「まあな。黒浪や杜都辺りは騙されていたが、柴芭や雪峰は見抜いていただろうな」
倉崎 世叛は、応接室に備えてあったポットから茶を湯呑みに注ぎ、ロランの前へと置く。
「こうなっては、仕方ありませんね。確かにボクは、カズマじゃありません」
ロランは、湯呑みを取らずに立ち上がると、テレビの前へと立った。
「なるホド、そう言うコトか……」
ロランの背中にあるテレビには、ガタガタと怯える御剣 一馬の姿が映っていた。
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