海底都市のデート
サンゴをくり抜いて造られた海底バンガローの内部は、色取り取りのサンゴがウエハースのように重なって、美しい模様を浮き上がらせている。
「ペイトー女王は、実の姉であるメ・ドゥーサを憎んでもいたし、敬愛もしていたってコトか?」
身を乗り出す、バルガ王。
テーブルサンゴで造られたテーブルの上には、夜光虫を集めた蒼いランプが吊るされていた。
「相反する2つの心を同居させられてしまうから、愛や恋などと言う感情は厄介なのかも知れないね」
青白い光を浴びた褐色の大魔導士は、なんとも言えない笑みを浮かべる。
「リュオーネ。アンタはペイトー女王が、メ・ドゥーサを憎んでいると見ているんだろうが、その理由はなんだ。敬愛する実の姉を憎むなどと、相当なコトが無ければあり得ないぞ」
「答えは、言ったつもりだったんだがねェ。やはり男ってのは、色恋沙汰に疎(うと)いようだ」
「そ、それじゃあペイトー女王は、メ・ドゥーサの愛した……」
バルガ王は、自分でも気付かないうちに立ち上がっていた。
「言っただろう。あくまで、わたしの予測に過ぎないさ」
「だがアンタの予測が正しければ、答えはこのオケ・アニスでは無く、地上の人間の国にあるハズだ。さっさと、地上に戻った方が……」
「慌てる必要も無いさ、真実は逃げやしない。まずは、あのコたちを待とうじゃないか」
大魔導士は、水晶玉を宙に浮かべる。
水晶には、オケ・アニスの街を歩く、バルガ王の2人の側近の姿が映っていた。
「なあ、キティ。オケ・アニスの街もカル・タギアほどじゃ無いにしろ、海ン中でけっこうな規模まで広がってんな。街の雰囲気は、かなり違うケドよ」
ベリュトスが、隣を歩く赤い重鎧をまとった少女に話しかける。
「そうだな。女王も言っておられたが、マー・メイディアは圧倒的に女性の比率が高い。とうぜんながら街も、女性の需要に沿った宝飾品やらドレスやらの店が多いのだろう」
カルキノスの鎧を、ガシャガシャと音を立てながら歩く少女。
すれ違うマー・メイディアたちは、口元の微笑みを手で隠しながら通り過ぎて行った。
「なあ、キティ」
「どうした、ベリュトス」
「お前も少しは、お洒落に気を遣ったらどうだ。元は、可愛いんだしよ」
「なッ……いきなり、なにを言っている!?」
ピーコックグリーンの瞳がハッと見開かれ、顔色が鎧と同じ色になるキティオン。
「お、お前さ。ティルスの妹だけあって、見た目はイイと思うぞ。中身はアレだケドよ」
2人は、街のメインストリートに差し掛かっていた。
ショーウインドーには、高価そうなドレスや宝石が並んでいる。
「どうした。わたしに見ホレて、宝石でも買ってくれる気にでもなったか?」
「流石に、ここのは手が出ねェよ。もう少し行くと、屋台が出てる。行ってみようぜ」
「あ、ああ……」
ストリートの先は街の中心で、円形の公園となっていた。
中心には巨大な噴水があり、マー・メイディアたちの憩(いこ)いの場となっている。
公園には、木々の替わりにサンゴが植わっており、屋台があちこちに出ていた。
「水中でも無いのに、サンゴが枯れないのだな。大した技術だ」
「そんなコトより、キティ。こっち来いよ。これくらいなら、買ってやれるぜ」
サンゴの木を見上げる幼馴染みを、宝飾品の屋台に手招きで呼ぶベリュトス。
「お前、今が任務中だとわかっているのか?」
「まあな。だケド、悟られるのもマズいんじゃね」
「それは……そうだが」
「コレなんか、お前に似合いそうだぜ。ホレ、付けてみな」
ベリュトスは、赤いガントレットを装備した少女の耳元に、サファイア色のイヤリングを付ける。
「お前、いつも重装備だからな。イヤリングなら、多少は価値があんだろ?」
「こんなモノ、戦いに身を置くアタシには、必要が……」
桜色のゆるふわショートヘアをかき上げ、イヤリングを外そうとするキティ。
「今は休暇みたいなモンだ。お前いつもピリ付いてるケド、たまには気を抜けよ」
幼馴染みの手を止めると、強引に店主に金を差し出すベリュトス。
「お買い上げ、ありがとうございます。良き恋愛を」
若い女性のマー・メイディアは、元気に頭を下げた。
「い、いくら任務とは言え、やり過ぎだぞ」
「ま、安物だ、気にすんな。それより情報を、集めないとな」
ベリュトスは街のカフェへと入って行き、キティオンは慌てて後を追った。
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