衝撃の告白
「どう言うコトだ、ペイトー女王。ヤホーネス王国とは、交易ができないって言うのか?」
バルガ王は、隣に並んだ女王を問い詰める。
「ヤホーネス王国は、人間の王国なのです。我らマー・メイディアは、かつて人間との間に諍(いさか)いを起こしたのです」
「聞いたコトがあるな。マー・メイディアの王女が人間の王子に恋をし、恋に破れて泡と消えたと」
晩餐(ばんさん)のテーブルに付いていた、キティオンが言った。
「先代の女王の娘でした。以来オケ・アニスは、地上の人間の国との交流を絶ったのです」
憂(うれ)いを帯びた顔を伏せる、ペイトー女王。
「こう言っちゃなんだが、それはずいぶんと前の話じゃないのか。オレはヤホーネスに赴(おもむ)いて、レーマリア女王に直接会って来た。女王は若いながらも、正義と信念を持った人物だ。もう1度国交を回復するコトも、できるんじゃないのか?」
バルガ王の前向きな提案にも、女王の閉じた眼は開かない。
晩餐の席に、重苦しい空気が流れた。
「ペイトー女王。今、カル・タギアは、サタナトスってヤロウのお陰で、大変なコトにんってんだ。今回起きた津波だって、サタナトスが遠因だとも言える。地上の人間とか、言ってる場合じゃ……」
「お止しよ、バルガ王。ペイトー女王にも、複雑な事情があるのさ」
ヤホーネス王国の誇る五第元帥の1人に数えられる、大魔導士がバルガ王を制す。
「リュオーネ、アンタなにか知ってるのか?」
褐色の肌の魔導士の顔を伺う、バルガ王。
「知ってるもなにも、地上人の脚を得る薬を調合したのは、このわたしだからね」
衝撃の告白に、晩餐の席に集ったマー・メイディアたちすらも沈黙する。
沈黙を破る権利を持っているのは、女王しか居なかった。
「泡となって消えたと言われた王女は、わたくしの姉でした」
「ペイトー女王……」
防衛隊隊長のステュクスすらも、言葉を詰まらせる。
「いずれ、話さねばならないコトです。あの赤子だったバルガが王となった今が、相応しい時期なのかも知れません」
女王は、蒼い宝石のような瞳を開いた。
「姉は、生真面目なわたくしと違って、好奇心が旺盛で自由奔放な性格でした。幼き日のわたくしは、そんな姉に憧れていつも後ろを付いて回っていたのです」
姉の話をするペイトー女王の表情が、僅かに緩む。
「その上姉は、海に住む宝石と謳われたマー・メイディアの中ですら際だって美しく、誰からも愛される美貌を持っていたのです」
「アンタだってキレイだろうに、そこまで美しかったのか?」
「わたくしなど姉に比べれば、道端の石にすら及びません。それホドに、際だっていたのです。無論、そんな姉を、男たちが放って置くハズもありません。マー・メイディアに限らず、数多の海の民が求婚をして来たのです」
「女王の美しさで、道端の石以下って……わたしはどうなるんだ」
「そう落ち込むなって。道端の石が好きな男も、居ると思うぜ」
幼馴染みの少女を慰める、ベリュトス。
「ですが姉にはすでに、先代の女王……わたくしの母の決めた、婚約相手が居ました」
「政略結婚……ってヤツか」
「オケ・アニスに限らず、マー・メイディアの王族は、親の決めた相手と結婚するのが当然なのです」
「随分と、古典的なしきたりがあるんだな」
「姉は自由を重んじる性格でしたから、親の決めた相手との結婚を嫌がりました」
「オレだってイヤかもな。だから地上の人間に、恋をした……と」
「どこまで本気だったのか、わたくしには解りません。ですが姉の結婚は、親の決めた婚約者を相手に、強引に推し進められたのです」
「酷い話じゃねェか。それで、どうなった?」
「姉は、婚約相手との子を身籠りました。ですが、地上の人間のコトを忘れられなかったのでしょう」
再びまぶたを伏せる、ペイトー女王。
「あの子はね。わたしを訪ねて来たのさ」
「リュ、リュオーネ……な、なんだって!?」
「そうさ、バルガ王。訪ねて来たのは、メ・ドゥーサ。アンタの、実の母親だよ」
褐色の肌の魔導士は、衝撃の事実を吐露(とろ)した。
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