桟橋(さんばし)
バルガ王の操るスグアバ号は、風を切りながら海面を飛ぶように走り、カル・タギアへと到達する。
海にポッカリと開いた穴から、海底都市の港へと降りて行く波鎮め号(ウェーブスイーパー)。
「航路については、この船じゃなんの参考にもならないね」
迎賓(げいひん)として船に乗っていた、リュオーネ・スー・ギルが言った。
「コイツは、性能がチート過ぎるからな。商業用の船で船団を組んでみて、実際に運航してどれくらいの日数がかかるかってところだ」
360度の全方位に流れ落ちる滝を背景(バック)に、バルガ王が返す。
「ですがバルガ王。最初の漁村は復興のメドが立ちましたが、マー・メイディアの水上コテージについては、なんの制約も貰えませんでしたからね」
「それどころか、ペイトー女王の心証はかなり悪かったと思うぞ」
「問題は山済みか。だが巨大な波の方が、乗りこなしがいがあるってモンだぜ」
問題点を挙げるベリュトスとキティオンに、威風堂々と答えるバルガ王。
やがて船は、海底都市の港へと降下し、桟橋へと接岸した。
「バルガ王よ。よくぞご無事で、ご帰還なされました」
一行が、船と桟橋を繋ぐタラップを降りると、学者風の男が王の前に出て(こうべ)頭を垂れる。
「王が、帰って来たぞ!」
「ベリュトス、さっさと降りて来いよ」
王とその一行は、桟橋に集まった海の民の、盛大な歓迎を受けた。
「ずいぶんと派手な出迎えじゃねェか、シドン」
「民たちが、率先して王を出迎えたがっていたのです。止める理由もないでしょう」
王の参謀は、アイスブルーの切れ長の瞳に主(あるじ)を映し、ほほ笑む。
「兄上、お疲れ様でございます。ヤホーネス王国との交渉につきましては、いかがだったでしょうか?」
桟橋には、ウェーブのかかったダークグリーンの髪の男も、小隊を率いて立っていた。
「兄弟同士で、そんなにかしこまるなよ、ギスコーネ。交渉は、上手く行ったぜ」
弟の肩をポンと軽く叩く、バルガ王。
「ヤホーネス王国のレーマリア女王は、まだお若いながらも聡明な方だったぜ。我がカル・タギアと同盟を締結するコトを承諾してくれたし、交易航路を創設する提案もされてな」
王の言葉に、民衆から歓喜の声が沸き上がった。
「そいつァ、スゲェぜ。さすがは、バルガ王だ」
「これで慢性的な物資不足も、解決するってモンだよ」
「商売も、はかどるじゃねェか」
「ヤホーネス王国より、5大元帥の1人であるリュオーネ様が、大使としてお越しくださっております」
ベリュトスが、褐色の肌の大魔導士を紹介する。
「女王レーマリアより、同盟締結の任を仰(おお)せつかった、リュオーネ・スー・ギルだよ」
大魔導士はマントに風をはらませ、フワリと浮かびながら船を降りる。
「これはリュオーネ様。遠路はるばる、よくぞお越しくださいました」
「ご高名は、このカル・タギアにも届いております。お会いできて、光栄に存じます」
シドンとギスコーネが、王の左右に出でて丁重に挨拶をかわした。
「少しばかり寄り道をしてしまってね。遅くなって、申しワケなく思っているよ」
「ま、その主な原因は、ウチの王にあるのだがな」
キティオンが指摘すると、民たちからドッと笑い声が起きる。
「うっせ、お前ら。それよりみんな、宴の準備をしておけ。今日は、ヤホーネス王国の大使を、盛大にもてなさなきゃならねェからよ」
「任せな、バルガ王。豪勢な魚の料理を、大量に並べてやっからよ」
「こうしちゃいられねェ。準備だ、準備」
「酒も、たくさん用意しねェとだな」
桟橋に集まった民たちは、蜘蛛の子を散らすように去って行った。
「ヤホーネスとは、王と民の関係がかなり違うね」
「驚いたか、リュオーネ」
「ま、多少はね。わたしには、こっちの方が性に合ってるよ」
「王に大使様。大使館の方にて、詳しい話を致しましょう」
「そうだな。難しい手続きは、お前とギスコーネに任せるぜ」
「またそれですか、兄上」
「優秀なブレーンが、居るんだ。任せるのはとうぜんだろ?」
ニカッと笑ったバルガ王は、大使館へと向かい、優秀なブレーンたちも後を追った。
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