捜査の手がかり
昼の忙しい時間帯を乗り越えたファミレスは客もまばらで、店員たちもカウンターの向こうで楽しそうに雑談をしている。
サッカー選手と元アイドルたちが座る窓際の席には、春の陽光が差し込んでいた。
「い、今、なんて言いました……?」
ロランが、聞き返した。
「壬帝 輝世嵐(みかど きせら)だケド、それがどうかしたのかい?」
ウィンデも、逆に問い返す。
「どないしたんや、ロランはん」
「ミカド キセラ……どこかで聞いたコト、ありますな?」
金刺と杜都が、顔を見合わせた。
「壬帝オーナーの、実の妹の名前だよ」
「そう言や、そうやったわ!」
「ロラン士官が会いに行った、アイドルの方々から聞き出されたのでありましたな」
「ヒルミと、デリアのコトだね。久しぶりに連絡があったって言うから、何ごとかと思えば……」
「アン姉の弟が、自殺の調査をしてるから協力して欲しいって言うんだ。驚いたよ」
連絡やスケジュール管理は、どうやらマルデが担当しているのだと感じるロランたち。
「キセラってアイドルは、オレの姉貴……杏寿(アンジェ)とは、同じ深夜枠のバラエティ番組に出てたんですよね?」
「そうだよ。でも最初は、レギュラーってワケでも無くて、ゲストとして参加してたんだ」
「だけどアイツ、見た目はカワイイし、言動はイカれてるから人気が出ちゃってね。途中から、レギュラーになったんだよ」
「言動がイカれてると、レギュラーになれるでありますか」
「アイドルなんてのは、そんなモンだよ。演じてるコも、居るくらいさ」
「まあキセラの場合、天然だったケドね」
「天然ってのが、質(たち)が悪くてさ。マジで、イカれた性格してやんの。寝坊して遅刻した挙句、逆切れして撮影すっぽかして帰っちゃうわ、気に入らない番組スタッフを平手打ちするわで、もう大変だったんだから」
「その度に、アンのヤツが頭下げてね。あたしも、隣でペコペコしてたんだケド」
「ウィン姉の謝罪って、ほんとペコペコしてるだけだったよね」
「う、うるさいな。そう言うのを上手くやるの、苦手なんだよ」
元アイドルたちの会話が、横道に逸れて行く。
「率直に、お伺いします。オレの姉であるアンジェの自殺に、キセラは関わっていると思いますか?」
「そうさね。アンの心の内まではわからないケド、原因の1つにはなってただろうね」
「しっかしキセラってお人も、そんな我がままでよう番組を降板にならんかったな?」
「本人は、降板したかったんだろうケドね」
「自分の出てる番組を、降板したかったでありますか?」
「キセラは元々、歌やダンスなんかをやる正統派アイドル志望だったからね」
「だからあえて問題行動をして、バラエティ番組から抜けたがってたんだ」
「それなのに、番組降板とはならなかった?」
「キセラで数字が取れてたのも、事実だったからね」
「番組側としても、おいそれと降板させられなかったんだよ」
マルデとウィンデから裏事情を聴き、腕を組んで考え込むロラン。
「SNSでウチの姉のファンたちと揉めたのって、もしかして……?」
「ああ、キセラのファンさ。アイツのファンって、本人と同じでイカれてるからね」
「アン姉のファンは、逆に真面目な人が多かったから、ぶつかるのも必然だったんだ」
「そう……ですか」
「せやケド、そのSNSっちゅうんは、消されてもうたんやろ?」
「イヤ。事前に落としといたログを、このコたちが持ってるよ」
ウィンデが、パジャマを着た2人の女のコを両脇に抱える。
「ホントですか!」
「ああ、ホントさ。わたし達には、どう使っていいモンか判らなかったケド、アンの弟であるアンタになら、渡しても構わないだろ」
モコモコのパジャマを着たアマルが、ノートパソコンを取り出してウィンデの前に置き、もう1人のパジャッ娘であるジーナが、操作を始める。
「悪いんだケドさ。わたしらもこれから、ヴァーチャルアイドルとして活動しようとしてるんだ」
「だから、ウチらから受け取ったってコトは……」
「解ってます。情報の出所は、決して他言はしません」
ロランはジーナから、情報の入ったメモリーを受け取った。
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