ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第03話

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ガラパゴスな日本

 天空教室のあるタワーマンションから、ユークリッド本社ビルに続く地下道の中間に建てられた、半地下のドーム会場で、ゲリラライブが始まろうとしていた。

「まさか平日の真っ昼間から、告知無しにこれだけの観客動員を見込めるなんてな」
 教室の大きな窓から、雲の下の地上を見降ろすボク。

「それにしたって、凄い人ね」
「あの人たちみんな、メリーやタリアたちを目当てに、集まってんだよな?」
「みなさん、スゴイのですゥ!」

 3人の生徒たちが見降ろすフェリチュタスアレーナには、ユークリッドのアイドルたちを一目みようと、大観衆がアメに群がるアリのように集まって来ていた。

「警察が出て、交通規制まで行われてるよ、ユミア」
「アイツったら、本気で事前に届け出て無かったのかしら」
 レノンに言われ、呆れた顔をする栗毛の少女。

「そんなワケは無いろう。いくらゲリラライブとは言え、ちゃんと警察には許可をもらっているさ」
 ユミアの見解にに反論しながら、1人の男が天空教室へと入って来た。

「ゲッ、また現れたわね、久慈樹 瑞葉!」
 すでに社長とひと悶着(もんちゃく)あったユミアは、攻撃的に身構える。

「社長に向かって、素晴らしい物言いだな、ユミア。だがこの天空教室も、今日で終焉を迎えるコトになりそうで、寂しい限りだよ」
 入って来た男は、サラサラの髪をかき上げながら言った。

「こんな大がかりな妨害をして置いて……よく言えるわね」
「妨害をしないなどと、言った覚えはないさ」

 久慈樹社長は、ボクの教壇の横を通り過ぎると、巨大なガラス窓から眼下を見降ろしながら言った。

「今の世界は、契約社会だ。日本人ってのは、契約とは護るためにあると思っているが、実際は違う」
「だ、だったら、なんだって言うのよ?」

「契約とは、破られたときにどうするかを決めるモノなのだよ。日本人はよく、約束を護らないと中国や韓国を批判するが、世界での標準的考え方は彼らの方に近い」

「で、でもここは、日本なのよ。日本にだって、独自のルールが……」
 必死に食い下がろうとする、ユミア。

「それこそ、日本がガラパゴスな理由だよ。日本だけが、古びた儒教的独自ルールで戦っているんだ」
「人を敬うコトが、悪いコトだって言うの?」

「ああ、悪いね。儒教……とくに朱子学が頭にこびり付いた連中を、敬う理由など無いさ」
 久慈樹社長が切り出した話は、教育方面に流れて行った。

「戦後、義務教育の名の元に進められた教育指導要領などは、工場で働く画一的な人材を生み出すコトには向いていたのかも知れない。かつては、日本の企業の競争相手は日本企業だったから、それで通用したのだろう。だが、時代は変わったのさ……」

「インターネットが、世界を変えたってコトですか?」
「端的に言えば、そうなるな」
 ガラスに映る久慈樹社長の瞳が、ボクを捉える。

「インターネットの登場で、情報も通貨も高速でやり取りされるようになり、世界は身近になった。日本企業の競争相手も、必然的に世界各国の企業へと替わる」

「日本の企業が、世界と戦えてないって言うの?」
「そ、そうだよ。アニメや漫画なんか、世界で人気って聞いたし」
「ゲームも、強いと思うのですゥ」

「モチロン戦えている企業も、分野もあるさ。だが多くの企業は、中国や韓国の企業の後塵をはいした。軍門に降った、大手電機メーカーだってある有り様だ」
「社長は、どうしてそうなったと思われるのです?」

「理由は、複数あるがね。中国や韓国企業が、必死に技術を身に付けようと躍起(やっき)になっていた時代に、日本の企業はなにをしていたと思う?」

「そ、それは、同じように成長をしようと……」
 社会経験など無いボクにとって、答えは解らなかった。

「社内の派閥闘争だよ。どうでもイイ派閥を作って、互いに潰し合うコトに明け暮れたのさ」

 久慈樹社長は振り向いて、ボクの顔を見ていた。

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