壬帝 輝世嵐(みかど きせら)
「アンタら、パジャマで外出てるんか。タイガイやな」
「ま、まあ、可愛いデザインでありますからな。一見してパジャマには見えないであります」
山盛りのポテトを口に運びながら悪態をつく金刺を、必死にフォローする杜都。
「ま、パジャマっつっても、けっこう値の貼るブランド物なんだケドさ。一応は元アイドルなんだし、外出着くらい買えッつ~の」
マルデが炭火焼きステーキを、ナイフとフォークで切り分けながら言った。
けれどもアマルとジーナは、顔を真っ赤にしながら俯いて、ドリンクバーのジュースをストローでチューチュー飲んでいる。
「ホンマ2人とも、喋れへんな。ワイやったら、死んでまうわ」
「それにしても、アイドルなのに内気で大丈夫でありますか?」
「とうぜん大丈夫……なワケも、無くてねェ」
「無口なキャラも、アリっちゃアリなんだろうケドさ。番組の撮影中に一言も喋らないのは、流石に問題になったんだよ」
ウィンデの目配せを受けたマルデが、ため息交じりに答える。
「せやろな」
「ところで皆さまは、またアイドルを目指してるでありますか?」
「ウチらもう、現実(リアル)のアイドルは目指してないんだよ」
「リアルでない……と言いますと?」
「仮想空間(バーチャル)に、決まってんじゃん。今の世の中、現実のアイドルなんかよりぜんぜん稼げてんだから」
「バーチャルアイドルか。そう言やどっかで、聞いたコトあるわ」
「戦争もそうでありますが、今はデジタルな時代なのでありますな」
「スマホやパソコンが、進化してるからな。個人でも、自己プロデュースが可能なのか」
ロランが、始めて口を開いた。
「ま、イイことばかりでも無いさ。高性能なパソコンとネット環境は必須だし、マイクやらカメラやら、機材もやたらと高くてね」
「だから4人で住んで、生活費削ってんの。ジゼルのヤツに、負けたくないからね」
マルデが、ぐちゃぐちゃに切り刻んだステーキを頬張りながら、ボヤく。
「ジゼル……って、誰や?」
「確か、ロラン士官の姉上のアイドルグループにも、そんな名前は無かったでありますな」
「ジゼルってのは、引退後の芸名さ。ウチらグループのセンター張ってた1人だよ。でも我がままで、ステージやら番組やら色んな場所で、コトあるごとに揉めるヤツでね。まあ、ヤンデレキャラで売ってたから、しゃ~ない部分もあるんだケドさ」
「しゃ~なくないだろ、ウィン姉。アイツのお陰で、アン姉やウィン姉が、どれだけ頭下げさせられたと思ってんの」
「ウチの姉貴も、巻き込まれていたのか?」
ロランが、アン姉という言葉に反応する。
「ああ、そうだよ。アンのヤツは、明るい良いコなんだケド、根は真面目だったからね。バラエティ番組じゃアンはリーダー任されてたから、立場的にもジゼルの我がままを注意せざるを得なくてね」
「ロランはん……これって」
「もしやそのジゼルという方が、事件に関わってるのでは?」
「確実に、そうだな。スミマセン、そのジゼルって人の情報を、詳しく教えて貰えないでしょうか」
ロランは真面目な顔で、小さく頭を下げる。
「そう言やアンタ、アンの自殺の原因を探ってんだったね」
「だったらジゼルのヤツが原因に、決まってんじゃん」
「短絡的だねェ、マルデは。だけど、なんの証拠もないだろ」
「ま、まあ、そりゃそうだケドさ。ジゼルったらあんなコトがあったのに、解散したら直ぐにバーチャルアイドルに転身してんだよ。あれだけみんなを振り回して置いて、自分だけメッチャ成功してんじゃん。アッタマ来るったらないね!」
「ジゼルのヤツは、男にスリ寄るのが上手いからね。アイドルとしては、一つの才能だよ」
「ま、それは解かってんだケドさ……」
片頬をふくらませ、ソッポを向くマルデ。
「ジゼルってお人は、今や売れっ子のバーチャルアイドルなんか」
「ヴァーチャルアイドルとしての名前が、ジゼルなんでありますな?」
「ああ、そうだよ。ウチらのグループに居た頃の芸名は、壬帝 輝世嵐(みかど きせら)」
ウィンデは、アンニュイな声でそう告げた。
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