ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第08章・07話

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太陽の儀式

 間近で見る噴水は、上から見降ろすよりも遥かに大きく、ヒスイ色をした円盤状の泉が、大小いびつに何層にも重なっている。
天辺(テッペン)の方から吹き上がった水が、下層に向かって勢いよく流れ落ちていた。

「こんなにキレイな水を見るのも、久しぶりだな」
 ボクは、噴水の水をすくって飲んでみる。

「美味しい水だ。ボクの生まれた街も、周りが山に囲まれていて水の産地だったよ」
 1000年の昔に置き去りにした、故郷の街の光景が脳裏に浮かぶ。

「火星では噴水なんてそこら中にある、当たり前の施設なんですがね。今の地球じゃ、滅多にお目にかかれない光景ですよ」
 噴水を見上げるメルクリウスさんは、寂しそうな顔をしていた。

「これが、セノーテってヤツかよ。噴水の下全部が、巨大な貯水槽になってやがるぜ」
「汚染されていない大量の水があるから、これだけの人々が暮らせているんだな」
 プリズナーに吊られ、ボクも美しい水があふれる噴水の中を覗き込む。

 噴水の水底は、網目状に組み合わさったガラスになっていた。
その向こうも、水に満たされた巨大な貯水槽となっていて、底は蒼くフェードアウトして見えない。

「アタシらの祖先は、こうやって乾いた大地に穴を掘ってセノーテを造り、水を得ていたのさ」
「トラロック・ヌアルピリは、元は製薬会社なんだ」
「薬を造るのには、キレイな水は欠かせないんだよ」

 ショチケ、マクイ、チピリの3姉妹の声が、背後から聞こえた。
振り返ると、一糸纏わぬ3人の少女がそこに立っている。

「どうした、お前ら。ガキのクセして、発情でもしたのか?」
 プリズナーの罵倒を無視して、3人はセノーテの噴水の中へと飛び込んで行った。

「ここは、人々の命を支える生命の泉」
「ここは、人々の生活を支える営みの泉
「ここは、人々に永遠の安らぎを与える死の泉」

 ショチケ、マクイ、チピリの3人は、噴水の底からさらに下の、セノーテの貯水槽へと沈んでいく。

「アイツら、入水(じゅすい)自殺でもする気か?」
「どうやら、違うみたいですね。物語(ストーリー)が、進行したんだと思いますよ」

 3姉妹は貯水槽を魚のように泳ぎながら、妖艶なダンスを踊り始めた。
彼女たちの舞踏を見ようと、巨大ショッピングモールの大勢の住人がヘリから身を乗り出して、吹き抜けの底にある噴水を覗き込んで奇声を上げ始める。

「オイオイ、なんだコリャ。住民どもが全員、狂っちまったのか?」
「違うよ、プリズナー。どうやらメルクリウスさんの、予見した通りだったみたいですね」
 ボクはすました顔の、若草色のコートの男に問いかける。

「物語が進むくらいは、誰だって予見できますがね。どんな内容かまでは皆目見当が付きませんよ」
 細い目で噴水を見つめながら、話をはぐらかすメルクリウスさん。

 すると噴水から三つの水柱が吹き上がり、その上に3姉妹が腰かけた。
3人は無表情で、裸であるにも関わらず恥じらいの表情すら全くない。

「翼を持った蛇、ケツァルコアトルよ。よくぞ戻られた」
「今、太陽は没し、次の太陽はまだ現れぬ」
「ケツァルコアトルよ、我らと契り給え」

「うわッ、なんだ!?」
 3姉妹の台詞が終わると同時に、噴水から水の鞭が何本も飛び出して、ボクの身体を絡め捕った。

 痛みに悶(もだ)えながら上を見上げると、セノーテの住民たちが地面を太鼓のように踏み鳴らしながら、歓喜の大声を張り上げている。
下から見るその様は、太陽が踊っているようにも見えた。

「宇宙斗艦長!」
「テメーら、なにをする気だ!」
 プリズナーが拳銃を放つが、3姉妹は水柱と共に噴水の中へと消え去った。

「グッ……グアッ!」
 ボクは水の触手に縛られたまま、噴水の泉に引き込まれてしまう。

「ケツァルコアトルよ、よくぞ復活なされた」
「3姉妹の身体を、受け取るが良い」
「さあ、我らと契ろうぞ」

 ボクはセノーテの底へと沈みながら、服を剥ぎ取られて行った。
柔らかく温かい感覚が、裸になったボクの脳を満たしていく。
やがて意識が朦朧(もうろう)とし、完全に途絶えた。

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