ウティカとルスピナ
ソーダ水を溶かしたようなサンゴ礁の海に、真っ白な入道雲を浮かばせた空。
白い砂浜に寄せては返す波が、ザァー、ザァーと心地よいリズムを刻んでいた。
「そのコたちが、わたしを手伝ってかれるのかい。ホラ、こっちにおいで」
それらを望む高台にて、リュオーネは傍らに2人の少女を呼び寄せる。
「ウティカは気の利く娘ですし、ルスピナも海の民たちが芯の強いコたと言っておりましたでの。少しは魔導士さまの、お役に立てるハズですじゃ」
真っ白な髭を撫でながら、2人を送り出す長老。
「良かったじゃねェか。可愛らしい助手ができてよ」
バルガ王も、ニヤリとした笑みを隣の魔導士に向けた。
「そうだね、バルガ王。生身の助手なんて、久しぶり……オヤ?」
2人の頭の上に、左右の手を乗せたリュオーネは、何かに気付く。
「どうしたんだ、リュオーネ。気に入らなかったのか?」
「イヤ、これはこれは……大したモノだよ、このコたちは」
「だから、なにが大したモノなんだ。ワケが解らんぜ」
「魔法の力だよ、バルガ王。この2人は、かなりの魔力を秘めているのさ」
大魔導士は、大きな黒いマントの中に2人を抱き寄せた。
「魔力って……この小さな女の子がか?」
「あまり魔法を使えそうにも、見えんが……」
ベリュトスとキティオンも、同時に首を傾げる。
「リュ、リュオーネさま。わたしは、魔法など使えません」
「わたしも魔法……使えるワケない……」
怯えるように目を瞑(つむ)る、ウティカとルスピナ。
「この大魔導士の見立てを、誰も信じないとはねえ」
大魔導士は、マントの中の2人の背中に立った。
「まずは、ウティカ。アンタは、風の魔法を操る能力を持っている」
「わたしが……風の魔法を?」
「ホラ、手の平を上に向けてごらん」
リュオーネはウティカの手の下から、手の平を合わせて軽く握る。
するとウティカの手の平に、小さな竜巻が発生した。
「うわ、ビックリした。でもこれは、リュオーネさまが出してる魔法ですよね?」
「確かに出したのは、わたしだがね。アンタの魔力を使ってやってるコトだよ」
リュオーネは、ルスピナを抱えてウティカの背中から離れる。
「リュオーネが離れても、小さな竜巻が残ったままだぜ」
「マジで、風の魔法を操れるのかよ」
「本当に、才能があったんだな」
「だから、言ったじゃないか。ウティカ、アンタなら自分でも、その竜巻をイメージできるハズさ」
「竜巻を……イメージですか?」
半信半疑のウティカが目を閉じ、手の平に意識を集中させた。
すると小さな竜巻は一気に巨大化し、大きな竜巻へと変化する。
「きゃあ、なにコレ!?」
慌てたウティカが拳(こぶし)を閉じると、竜巻は瞬時に消え去った。
「これで解っただろう。ウティカ、アンタは出し方さえ覚えられれば、これくらいの魔法を操る能力を持っているのさ」
「わたしが ……今の竜巻を……」
ハンターグリーンの髪の少女は、不思議そうに自分の両手の平を見つめる。
「さて、ルスピナ。次は、アンタの番だよ」
「わ、わたしは……ムリ……」
「そうかい。でもホラ、これが水の魔法さ」
大魔導士はルスピナの両手を、水をすくうようなカタチに合わせた。
すると本当に、ルスピナの手のお椀が水で満たされる。
「澄んだ、綺麗な水だよ。飲んでごらん」
「は、はい……お、美味しい!」
「アンタの心が、澄んでいる証拠さ。水の魔法は、多くが回復系なんだ。洞窟で、あんなに大勢の子供たちが生き残れたのも、知らず知らずのウチにアンタが回復魔法を使っていたからなのかもね」
「なるホドな。あん時は、子供たちが助かって喜び過ぎて気付かなかったケドよ。まさかそんな理由があったなんて、驚きだぜ」
砂浜から大きく迂回して、高台に辿り着いたティンギスが言った。
「長老、アンタだけは気付いていたみたいだね?」
「はて、なんのコトですかな?」
「まったく……まあ良いさ。優秀な助手だ。有難く、使わせてもらうよ」
大魔導士は、両脇に抱えた少女たちの頬を、撫でながら言った。
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