ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第12章・23話

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ワイングラス

 真っ暗な石畳の上を、音も無く歩く少女。
窓の少ない分厚い石壁には、所々に設置された松明のオレンジ色が、僅かに反射している。

『どうやらこの人たちが石にされてから、大した時間は経ってないようね』
 少女は、砦の一室を覗き込みながら、頭の中で即座に状況を把握した。

 部屋は食堂らしく、石にされた兵士たちの前にはまだ燃え切っていない、ロウソクが置かれている。
白い皿に乗せられたスープも、まだ僅かに温かさが残っていた。

『時間が経過してないってコトは、まだ石化能力を持ったヤツらが、このゴルディオン砦に残ってる可能性が高いわ。遅れは取らないつもりだけど、相手は複数体……油断は禁物ね』

 少女は気を引き締めて、部屋を立ち去る。
再び風の衣を身に纏うと、完全に姿を消した。

「これは、提案ではない。宣告だ」
 長い黒髪の、男が言った。

 場所は、ゴルディオン砦の中枢である会議室。
長い豪奢(ごうしゃ)な机が入り口側にあって、諸将が集って軍議を開く部屋となっている。
窓は無く、砦の主となった歴代将軍の肖像画が、殺風景な壁を埋めていた。

「お前は知っているのだろう。ゴルディオン砦の主にして、ザバジオス騎士団の騎士団長である、ジャイロス・マーテス……キサマならな?」
 切れ長の目が、長い机の上座に座った男の顔を捉える。

 彼の前のテーブルには、幾つもの石像が恐怖の顔のまま椅子に並んでいた。
けれどもジャイロスの近くの椅子には、まだ震えて怯える騎士たちの姿もある。

「なん度問われても、知らぬモノは知らん。ここにおる騎士たちも含めて、例え己(おのれ)の身が果てようと、王都を焼いたキサマらに従う気は無い!」
 灰色の髭を蓄えた男は、厳格な顔で黒髪の男を睨んだ。

「ほう、これは大した心掛けだ。そのプライド、嫌いではないぞ」
 黒い長髪の男は、腕を組みながらテーブルの脇に集っていた少女たちに目配せをする。

「わかったよ、ケイダン」
「そいつらも、石にしちゃえばいいんだね」
 少女たちの髪がヘビへと変化し、目が黄色く光った。

「ヒイイィィ、ま、待ってくだされ!」
「わたし共は、アナタ様の命令通り、こうして……うわあ!」
 まだ動いていた騎士たちが、一瞬にして石像へと変化する。

「これでお前の部下は、全員石像と化した。もっともコイツらが、この砦の内側から我らを、招き入れる準備をしてくれていたのだがね」

「ぐぬゥ!」
 ザバジオス騎士団の団長は立ち上がって、腰に佩(は)いだ剣に手を掛ける。

「戦うのか。構わんが、例え人間の姿のオレであっても、絶対に適わないと知っていよう?」
 ケイダンは、まったく無防備な顔をしてジャイロスの椅子に座った。

「う……くうッ!」
 鞘から剣を抜くコトすら出来ない、ジャイロス。
部下たちを石に変えた少女たちなど比較にならない程、危険な存在だと解ってしまっていたからだ。

 騎士たちが愉しんでいたワインをグラスに注ぐと、片手で持って口へと運ぶ。

「さて、もう1度聞く。この砦の何処かに、サタナトスが探している魔眼剣『エギドゥ・ステンノーサス』があるハズだ」
 グラスの中の赤い酒が、ジャイロスの姿をユラユラと揺らめかせていた。

「そんなモノは知らん。なにかの間違いであろう!」
「イヤ、知っているハズだ。歴代の騎士団長のみぞ知る、封印されし秘剣の在り処をな」

 ケイダンのグラスが、壁に並んだ肖像画を次々と、ワインの揺らめきに沈めて行く。

「ど、何処で、それを?」
 ケイダンに言われ、目を見開くジャイロス。

「お前の娘だ。もっとも、実の娘では無いのだろう?」
 両開きのドアが開き、2人のトカゲ少女が1人の少女を引き立てて来た。

「ビスティオ……お前、どうして!?」
「も、申しワケございません、お義父さま……」
 少女は、義理の父親の目の前で泣き崩れる。

「そう、彼女の名は、ビスティオ・レノ・ベルナディオ。ザバジオス騎士団長の先代である、オシュ・カーの娘なのだろう?」
 ワイングラスが、1枚の肖像画の前で止まった。

「かつて魔王を討伐するために組織された、最強のパーティー……その1人だった、オシュ・カー・ベルナディオのな」

 ケイダンは、ワイングラスを床に投げる。
グラスが割れ、赤いシミが真っ赤な絨毯に広がって行った。

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