水の力と風の力
目の前に築かれた、破壊したアーキテクターのスクラップによるバリケード。
その向こう側まで迫って来ている、アーキテクター部隊の行進音。
「あの……ここって、水が通ってる配管、ありますか?」
メイリンがオドオドしながら、皆に質問している。
「あの右端のがそうだが、水でヤツらの動きを止めるってか。残念ながらヤツらも、耐水防御くれェはしっかりとだな……」
ギムレットさんがゴタクを並べている間に、黒乃が配管を撃ち抜いた。
「うわッ、水がハデに噴き出したぞ!?」
「だがよ。アイツらは、気に世せず向って来てやがる。こっちだけが、視界が悪くなっただけだぜ!」
「そうでも無いわよ。メイリンは、水を操れるみたい」
「そんな魔法みたいなコト……アッ!?」
そう言いかけて、ハッとするボク。
メイリンが手の平をかざすと、水はまるで生き物のように動き周り、アーキテクターを包み込んでは、ボディの隙間から内部へと染み込んで行く。
やがてアーキテクターたちは、内部から噴水のように水を吹き出させて破裂した。
「そう言えば、似た能力のデバイスを使っていたコを、知っていたな」
ボクは、3人のオペレーター娘の1人である、ヴァルナ・アパーム・ナパートを思い出す。
彼女のチューナー『アクア・エクスキュート』は、アクアマリン色の水に見えるが、正体はナノ・マシーンの集合体だった。
「『チューナー』を、知っているのね。そう言えば火星では、けっこう流行っていたと聞くわ」
「ええ。他に2人の女のコの、チューナーを見ましたよ。知らなかったんですか?」
ボクは、ミネルヴァさんの名前を伏せて、聞いてみた。
「あんな組織の、トップをやっているとね。世情には疎くなるものよ」
あんな組織とは、ディー・コンセンテスのコトに違いない。
組織のトップともなると、いつの時代も束縛されてしまうモノなのだろう。
「だがこれで、活路が開けたぜ。向って来たヤツらは、水で内部破壊されてほぼ全滅だ」
「ですがまだ、相手が築いた巨大バリケードが残ってます!」
要塞のようにうず高く積まれた、防護シールドの山。
緻密さは無いものの、その防御力は厄介だった。
「あそこにゃ、まだかなりの数のポンコツ機械が詰めてやがんな。オイ、お前。水で流したりはできねェのか?」
「お前じゃない、メイリンだリン!」
「なんだァ。今は名前なんざ、どうだって……」
「よくない……名前、大事リン!」
下半身が魚のような女の子は、向きになって怒っている。
「わ、わーったよ、メイリン。あのバリケードを、水で流して退けてくれ」
「ムリリン」
「ハアッ!!?」
「わたし、少しの水しか操れないリン。それにアソコ、少し高くなってるから余計、ムリリン」
「なにがムリリンだ、ふざけやがって。できねェなら、最初っから……オワッ!!」
ギムレットさんの目の前を、レーザービームがかすめ飛ぶ。
「気を付けて。一歩ズレてたら、死んでるところよ」
クールに黒乃が、ギムレットさんを狙撃したアーキテクターを撃ち抜いた。
「でもどうする、黒乃。バリケードの突破方法が、無いんじゃ……」
「今度は、わたしがやるラビ」
ボクの背中から、額に角の生えた少女が現れる。
「ラビリア……キミも、チューナーが使えるのかい?」
「わたし達は、チューナーってデバイスが無くても、似たような能力が使えるラビ」
そう言うとラビリアは、背中の小さな羽根を広げた。
「ラビリアに、アイツらのレーザーが当たらないように、援護よ!」
「了解、黒乃!」
「ヤレヤレだぜ!」
ボクたちは弾幕を張って、ラビリアへの攻撃を阻止する。
「わたしの能力は、風を操る力ラビ。行っちゃえラビ!」
背中の翼が、渦巻く風を生み出す。
やがて風は、竜巻となって巨大バリケードへと向って行った。
「スゴイ……あれだけ頑強だったバリケードが、一瞬で消し飛んだ」
突然に巻き起こったつむじ風は、バリケードを構築していた防護シールドを、軽々と吹き飛ばした。
「大したモノね。ここはクリアよ」
撃ち漏らしのないように、飛ばされたアーキテクターにトドメを刺すと、ボクたちは上の階へと向かって行った。
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