生きる決意
ボクたちは、何処かしこにガタが来たブリキのロボット(アーキテクター)が構築した、バリケードをもう幾つも越えていた。
「銃撃が止んだ。十字路を突き抜けるぜ」
「了解です」
「後ろ、サポートするわ」
ギムレットさんが突撃をし、ボクがサポートして、黒乃が背後の安全を確保する。
まるで、長年FPSをやって来たチームのようだ。
「右、まだ動いてる敵がいるラビ」
「左はクリアだリン。完全に、沈黙リン」
『ラビリア』と『メイリン』と名を改めた2人の少女たちも、銃を取って戦ってくれていた。
2人とも、ボクの指示した通りに、語尾にラビとリンを付けてくれている。
「それにしても日本語以外の言語圏で、語尾の変化は通用するモノだろうか。ギムレットさんや黒乃には、どう聞こえているのだろう?」
撃ち慣れてきた銃を手に、走りながら考えるボク。
「オイ、余裕ぶって油断すんじゃねえ!」
ギムレットさんが、真横の敵を撃ち抜いてくれた。
「ス、スミマセン」
「まあ良いケドよ。それより、もうすぐ外部につながる門(ゲート)だ」
「それじゃあ、外に出られるんですね」
「出たきゃ構わんが、今の地球の外ってヤツァ、放射能と科学物質に汚染された大気があるんだぜ」
「あのアーキテクターたちでさえ、5分と活動していられないでしょう」
「そ、そうでした。でも、それじゃあ元の建物には、戻れないんじゃ?」
危うく、黒い雨で溶けてしまうところだった。
「ここと、わたし達が捕まったゲーの居る建物とは、地下通路で繋がっているのよ。一端、地下5階まで降りて、地下通路を突破して向かうわ」
「了解だ、黒乃」
ボクたちは1時間ほどの戦闘を潜り抜け、地下5階の接続通路に辿り着く。
「案の定、ヤツらオレたちがここを通ると踏んで、巨大なバリケードを張って待ち構えてやがったぜ」
「アーキテクターの数も、今までとは比べものになりませんね。やはり、ハッキングは無理ですか?」
「ああ。ヤツら常時、命令を受け取る機構のチャンネルを替えてやがる」
「それじゃあ、この巨大なバリケードを突破する方法は、無いんですか?」
「もう少し近づければ、わたしの乗って来たサブスタンサーに、信号を送るコトもできるのだケド」
「シャラー・アダドのコトだよね。近づけると、なにが出来るんだ?」
「コミュニケーションリングを使って、遠隔操作ができるのよ」
「え。それって、有線が前提じゃ無いのか?」
「遠隔でも、基本的な動きなら可能なの。もちろん、精度は大幅に落ちるケドね」
「そう……ですか」
ボクにも、コミュニケーションリングがあればと、首筋を指で摩る。
「オイ、ヤツら隊列を組んで、押し込んで来やがったぞ」
「後ろからも、アーキテクターの気配がするラビ!」
「このままだと、あと1分で囲まれるリン!」
「アイツら、最初からわたし達を、この地下通路に誘い込むつもりだったのね」
「クソ、前後を囲まれる前に、どうにかするしか無ェ」
「でも、どうやって!?」
「……るせェ。今、それを考えてる!」
ギムレットさんに、いつもの余裕がない。
それくらいに、ヤバいってコトだ。
「倒したアーキテクターで、こちらもバリケードを構築しましょう」
「お、おお、そうだな」
ギムレットさんが倒したアーキテクターの残骸で、簡易バリケードを構築する。
けれどもアーキテクターの部隊の行進は止まらず、構築したバリケードに向け迫って来た。
後方の大型バリケードに陣取ったアーキテクターたちが、進出する部隊を援護射撃しているからだ。
「マズいわね。弾幕を張られて、顔も出せやしない」
「このままじゃアイツら、バリケードまで来ちゃうラビ」
「せっかくお外に出れたのに、ここで死んじゃうリン?」
ここで……死ぬのか?
メイリンに言われ、ハッとするボク。
正気なところ、生に対しそこまで強い執着があるワケじゃない。
1000年前のあの日、ボクは黒乃の誘いに乗って、彼女の創った冷凍睡眠カプセルに入った。
当時、普通に生きてたヤツから見れば、正気の沙汰ではないだろう。
「でも、キミが来れなかった未来を、ボクは見ると誓ったんだ」
ボクは始めて自分で、生きる決意をした。
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