デビルズ・ダークハッカーズ
真っ赤な巨大な腕が、鎖に繋がれた妹の天使へと向かっていく。
「ガアアッ……ルクスまで食べられちゃう!」
ライオンみたいな髪型の少女が、吼えた。
「食べるワケじゃ無いだろ、レノン。とは言え、これからどうなるか想像も付かんな」
そうは言ったものの、ボクもやはり不安が隠せない。
本当にカトルは、無事なのだろうか?
レアラとピオラは、人間をどう思っているのだろうか?
疑心暗鬼が、心の内で広がって行く。
「ルクスちゃん、大きな魔王に捕まっちゃったのですゥ!」
普段は小さな声のアリスが、大きな声を張り上げた。
ステージは、壮大な映画のクライマックスシーンのようになっている。
魔王と化したカトルの大きな掌(てのひら)が、完全にルクスを包み込んだ。
『天使の命脈は、完全に潰えた』
『これで世界は、完全に我ら魔族のモノとなったのだ』
真っ赤なドレスに身を包んだレアラとピオラが、ゆっくりと中央ステージに降り立つ。
『人間どもよ、聞け。お前たちを、我らAIが支配する……』
『このステージに集った者たちは、自分たちが支配される瞬間を目撃するのだ!』
ステージの上に吊るされた4面パネルが、コンピューターの回路設計図や、世界中に張り巡らされたネットワークを映し出した。
「ねえ、アンタ。あのコたちの言ってるコトって、本気じゃないわよね?」
「どうだろうね。ボクにも彼女たちがなにを考えているのか、さっぱり解らないよ」
本音を吐露する、久慈樹社長。
「アンタやユークリッドの開発者たちは、言わば産みの親でしょうに!」
「人間の親だって、自分の子供の考えを全て理解しているワケじゃないからね」
「もし彼女たちが大それたコトをしでかしたら、アンタらどうやって責任取るのよ!」
「まあ、AIが支配する世の中が本当に来たら、今の人間本位の法律も変わるだろう。それはそれで、楽しみじゃないか?」
「アンタって、ヤツは……」
蓄積された苛立ちが、マックスなユミア。
「ね、ねえ、見てよ、ステージ!」
「カトルちゃんとルクスちゃんが、いっぱいなのですゥ!」
「な、なんだ、これは……!?」
ステージには、赤や黒の禍々しい衣装を着たカトルとルクスが、大量に出現していた。
『さあ、人間どもよ。心して聴くがよい……』
『デビルズ・ダークハッカーズ』
2体のダークアイドルは、宙へと舞い上がる。
四方から浴びせられる、人間たちの熱狂的な声援をバックに、2人は歌い始めた。
「今度はテクノとか、サイバーパンク寄りの曲ね」
「ユミアは、音楽にも詳しいんだな」
ボクが感心していると、ユミアは顔を背ける。
「アハハ、彼女の好きなものは、せいぜいアニメやゲームだよ。その手のモノには、こう言ったノリの曲もよく使われているからね」
「う、うっさい、アンタは黙っとけ!」
どうやら図星だったようだ。
「うおわッ、見ろよ。大量に沸いた天使たちが、宙に飛び立って行くぜ!」
「ホントだ。でもアレって、もう堕天使じゃね。羽根が黒いし」
「そっか。堕天使の群れがこっちに……って、エエッ!?」
ドームの中に集った大勢の1人1人に、カトルとルクスの顔をした堕天使が舞い降りる。
堕天使たちは頬ずりをしたり、身体を密着させたりと、無邪気に振る舞った。
「せ、先生、これってどう言うコト!?」
「カトルちゃんとルクスちゃんが、頬っぺたを撫でて来るのですゥ!?」
「ボ、ボクに聞かれてもな……だけど、触られてる感触があるぞ!?」
ボクの左右に纏わり付く、小悪魔のようなカトルとルクス。
星色だった髪は薄い紫色に変わっていたが、ショートヘアなのは同じだった。
「多分、ナノマシーンで、わたし達の肌の触覚神経に干渉しているのよ」
「いいや。もしかすると、脳に直接干渉しているのかもな」
久慈樹社長が、ユミアと異なる見解を示す。
「脳にって……それこそ本気で、人間を支配しに来てるってコトじゃない!」
「……え!?」
ボクも慌てて、周囲の観客席を見渡した。
すると、夢見心地な顔の観客たちが、大勢目に入った。
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