ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第59話

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うやむやにされた事故

「少なくとも、一般的なアイドルの曲とは一線を画(かく)しているな」
 それがボクの、サラマン・ドールに対する率直な感想だった。

「でも、かなり高度な楽曲だわ。リズムも変則的だし、音がたくさん絡み合ってる」
「人間がやるなら、多重録音やらシンセサイザーなどの、高度なミキシング技術が必要だろうね」
 ユミアの意見を受けた久慈樹社長が、得意満面な顔をしている。

「よ~するに、世界中に存在するユークリッドのサーバーによるマルチ演算処理だから、成し得た業とでも言いたそうね」
「ま、そんなところさ」

 アロアやメロエの双子ほど妖艶ではないまでも、2頭身人形の頃とは見違える身体を手に入れた、レアラとピオラ。
背中の蝙蝠の6枚羽根を広げ、フワリと宙に舞い上がった。

『さて、我らを人形なんぞに閉じ込めた……』
『忌まわしき天使どもには、お仕置きをせねばならんのォ』

 レアラとピオラが両腕を広げると、カトルとルクスのいた真っ白な城が砂のように崩れ去る。

「うわあ!」
「チョット、こんなの聞いてな……!?」
 空中に放り出された天使に、無数の鎖が襲い掛かった。

「きゃあぁ!」
「イヤアッ!」
 星色の髪の双子の悲鳴が、ドームに木霊する。

「カトルとルクス、なんだかホントの悲鳴みたい」
 双子姉妹と、仲良くなっていたレノンが言った。

「カトルは、心臓が悪いのよ。あんな無茶させられて、大丈夫なのかしら?」
「実は彼女の心臓は、すでに限界が近いと医師から報告もあってね」
 平然と言ってのける、久慈樹 瑞葉。

「アンタ、それを知ってて……」
「当然だろう。彼女たち2人が、ユークリッドの契約に同意したのは、姉のカトルの心臓の手術費用を工面する目的があってだからね」

「人の命と引き換えに、契約を迫るなんてサイテー!!」
 栗毛の少女は、憤りを顕(あらわ)にする。

「何を言っているのかな。アメリカなどでは、手術費用が払えなければ死ぬのは当たり前のコトだよ。高度な医療の恩恵を受けられるかどうかは、金次第と言ったところさ」

「だけど、ここは日本なのよ!」
「ユーキリッドの株式を、大量保有しているキミには解らないだろうね。彼女たちは、医療保険さえ払えない家庭に育ったのさ」

 久慈樹社長が言った通り、ユミアを除いた天空教室の生徒たちは、何かしら家庭環境に問題があった。

「2人の家庭は、どんな問題を抱えていたんですか?」
 鎖に捕らえられ、苦しみ悶えるカトルとルクス。
ボクは、意を決して聞いてみる。

「2人の両親は、とある政治家によって殺されたのさ」
 上を見上げながら答える、ユークリッドの社長。

 その視線の先には、観客席の上を優雅に舞い飛ぶレアラとピオラの姿があった。
人間の身体を手に入れたAIたちは、観客たちをその不思議な歌声で虜(とりこ)にして行った。

「ど、どう言うコトですか!?」
「こ、殺されたって……本当なの?」

「正確に言えば、事故だった」
「じ、事故ですって?」

「ある雨の日、2人の両親を乗せた車は高速道路を走っていた。後部座席に、まだ幼い2人を乗せてね」

 デーモンのような姿をしたサラマン・ドールの2人は、鎖に縛られたルクスの元へと近寄る。

「そこに大型トラックが、追い越し車線側から覆い被さるように突っ込んだ。両親は即死で、カトルも心臓に傷を負った。2人の両親の車以外にも、多くの車が巻き添えを喰らったが、死者は2人だけだった」

「確か大型トラックは、盗難された車だったんですよね。そして犯人は……」
 久慈樹社長の語る事故は、ボクにもなんとなくの記憶はあった。

「教育民営化法案を支持する議員の、息子だ。30過ぎても定職に就かず、親のスネをかじって生きていた輩さ。議員は、事件をうやむやのウチに闇に葬った。あれだけの事件だったにも関わらず、犯人は懲役2年となった」

「ど、どうして、そんな少ない刑期なのよ!」
「オイオイ、ボクに言われても困るよ。言うのなら、日本の司法制度に文句を言ってくれ」

 確かに久慈樹社長も、ボクと同い年だから当時はまだ中学生くらいだっただろう。

「でもアイツらは、もっと幼い頃にそんな大変な思いをしたんだ……」
 カトルとルクスは、今も苦痛の表情を浮かべていた。

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