ロランの挑戦状
「へー。やるじゃん、一馬!」
コントロールされたシュートに、感嘆の声を上げる黒浪。
「キーパー居ないからって、テキトーに撃っても本番じゃ入んないよ。ロラ……一馬みたいに、ちゃんと意識してコース狙うね!」
セルディオス監督が、檄を飛ばす。
「杜都さ。監督のヤツ、いつにも増して厳しくねェか?」
「地域リーグに、アレだけの強豪が3チームも参戦するでありますからな。当然であります」
「それもそっか。名古屋にも1チームできるらしいから、もしかすると4チー……」
「黒浪、なにやってるね。さっさとシュート撃つよ!」
「わわ、オレさまの番か。そんじゃ行くぜ!」
湿った土のデコボコグランドを転がるボールを、シュートする黒狼。
けれどもジャストミートはせず、ボールはゴールの右に大きく逸れて飛んで行った。
「なにやってるね。ちゃんと、ボールの中心意識するよ!」
「……んなコト言ったって、こうデコボコのグランドじゃイレギュラーして……」
「地域リーグのグランドなんて、こんなモノね。プレッシャーも、今まで以上に強くなるよ」
「あ~あ。クロのヤツ、メチャクチャ怒られてやがんな」
「仕方がありませんよ、監督の言うコトは正しいですから」
「まあな、柴芭。カテゴリーが上がって地域リーグともなれば、その辺の高校生の部活レベルのプレッシャーとは、ワケが違うだろうしな」
「今までの相手のように、8点とか9点とか入れさせては、くれないでしょうからね」
「確かに、ちゃんとシュートコースを意識しなきゃ、なんねェのかもな!」
紅華は、目の前に転がったボールを左脚でカーブをかけて、ゴールの左隅にネジ込む。
「へえ、あのクレハナってヤツも、良いシュート持ってますね」
ロランが、倉崎の前で小声で呟いた。
「ああ。ヤツもまだまだ、伸びしろがある。ウチの場合、FWを置かない戦術だから、紅華や黒浪にはシュート技術も磨いて貰わないとな」
「ノートップってヤツですか。あ、今度はシバってヤツが、シュート撃ちますよ」
一馬になりすましたロランの前で、柴芭が得意のゴールの枠の外れたところから、内側に巻いて枠を捕らえるシュートを放つ。
「オワッ、すげぇシュート撃ちますね、彼は」
「ヤツはウチのチームの中じゃ、最も完成された選手だ。テクニックでなら、ロラン。キミと競えるレベルじゃないかな?」
「どうでしょう。良いモノ持ってるのは、認めますケドね」
そう告げるとカズマは、倉崎の前から走り出した。
「もう1本、キレイなの決めるね、一馬!」
セルディオス監督が、直々にボールを転がす。
「……モチロンさ」
カズマは、シュートを放った。
「一馬のヤツ、今度は枠外して……」
「力が入ったでありま……」
黒浪と杜都の前で、ボールが大きく弧を描く。
枠を大きく外れていたボールは、急激に曲がってゴールネットを揺らしていた。
「な、なにィ……!?」
「御剣隊員も、とてつもないシュートを決めたであります!!」
ゴールを決めたロランは、悠々とした笑顔で倉崎の元へと戻って来る。
「ナイスシュートだ、一馬。あんなシュートを、持っていたのか?」
「いえ。シバのシュートを見て、やってみたら出来ちゃいました」
「ヤレヤレ……まったく、厄介な相手が参戦してくれたモノだな」
思わぬカタチで現れた難敵に対し、将来に危惧を示すスーパースター。
「それじゃ次は、ミニゲーム始めるよ。8対8に分れてチーム作るねよ。辺見は審判ね」
ベンチには、青と黒の2種類のビブスが用意されていた。
「監督、9対9じゃダメですか?」
カズマの発言に、目を丸くするメタボ監督。
「ン、海馬を入れるね?」
「いえ、入って欲しいのは……」
ロランの視線の先には、倉崎 世叛の姿があった。
「か、一馬のヤツ、倉崎さんを試合に出すつもりだぞ!?」
「今日の御剣隊員は、やけに積極的でありますな……」
「倉崎はやっと、ギブスが外れたばかりね。ミニゲームとは言え、試合に出すのは……」
「構いませんよ、セルディオス監督」
ニヤリとほほ笑む、倉崎。
「そうこなくっちゃ」
対するカズマも、不敵な笑みを浮かべた。
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