白熱(ヒートアップ)
湿った土のグランドに、悠々と着地する倉崎 世叛。
「さっすが、倉崎さんだぜ!」
「ナイスボレーであります!」
黒色のビブスを着たチームメイトたちが、ゴールを決めた14番を囲む。
「イヤ、オレが失ったボールをディフェンス陣と連携して奪ってくれた、柴芭のパス精度のお陰だ」
「倉崎さん、謙遜し過ぎだって。確かに柴芭のプレーも凄かったケドさ」
「いえいえ、けっこうギリギリでしたよ。それに、まだ最初の1点が決まったに過ぎませんからね」
黒浪の誉め言葉にも動じず、冷静に試合状況を読む柴芭。
「ま、まあ、そうだよな。今度は、オレさまが決めてやるぜ!」
「自分もロングシュートを、狙っていくであります!」
「その意気だ。だがカズマも、黙っちゃいないだろうがな」
倉崎 世叛は、センターサークルに立っている男に、視線を移した。
「倉崎さんが、お前のコト見てんぜ……ってオイ、聞いてんのか?」
背番号10の蒼いビブスを着た男に話しかける、紅華。
「聞いているさ、クレハナ。中々に面白そうなチームじゃないか」
「まあな。オレもチームに入ってみたは良いが、おかしなヤツや、クセの強いヤツばかりで、最初は期待してなかったんだ。でも意外と、良いチームなんだわ」
「そうか……だったら、大事にするんだな。それがずっと続くなんて思ってると、痛い目見るからな!」
ロランは、紅華に強めのパスを送った。
すでに試合再開のホイッスルは、鳴り響いている。
「うわッ……って、なんだよ、まったくよォ!?」
慌ててボールを処理し、ドリブルを始める紅華。
「よォ、紅華。お前との1対1(ワン・オン・ワン)は、始めてだったか?」
不敵な笑みを浮かべ、Zeリーグの新人王最有力候補が立ちはだかる。
「そっスね、倉崎さん。でもドリブルじゃ、負けないっスよ!」
得意のシザースとエラシコを織り交ぜたドリブルで、突破を試みた。
「なるホド。実際に対峙してみると、大した切れ味じゃないか。だが……」
倉崎は、紅華の上半身に自らの肩をぶつける。
「おわッ……しまッ!?」
身体のバランスを崩され、尻もちを付く紅華。
けれどもルーズボールは、カズマに成りすました男がかっさらった。
「体幹の強さじゃ、まだ倉崎のレベルには達していないか。さて、もう1人は使えるのか?」
ロランはヒールキックで、バックパスをする。
「一馬のヤツ、雪峰キャプテンにボールを預けやがったぞ」
「雪峰士官へのプレスは、任せたであります。自分は御剣隊員を、確保するであります」
雪峰に対しては黒浪が、カズマに対しては杜都がマークに付いた。
「へへッ、キャプテンと1対1は始めてじゃね?」
「フッ、無駄口を叩く余裕はあるのか?」
「な、なにを!」
黒浪を挑発する、雪峰キャプテン。
自慢のスピードでボールを奪おうとするものの、圧倒的なテクニックの前に翻弄されてしまう。
「悪いが、ここまでだ。倉崎さんがプレスに来る前に、パスを出せねばならない」
綺麗なロングパスが、前線のロランへと通った。
「ユキミネ、大したテクニックだな。オレと同じ、キャプテン……か」
背中から来るボールを、胸で大きく弾ませるロラン。
「あ、一馬のヤツ、トラップミスりやがった」
「違うな。あえて前に大きく、トラップしたんだ。だからトラップ自体が、最初の1歩になっている」
スピードに難のある杜都のマークが、大きく引きはがされた。
「へぇ、そうなんだ。今度オレさまも、マネしてみよっと」
倉崎の分析を聞き、1つ賢くなる黒狼。
「ここは、止め……ェエッ!?」
「間を開ける……なにィイ!?」
センターバックの、龍丸と野洲田(やすだ)の間を、猛烈な勢いのボールが通過する。
「フゥ、これでまずは同点だ」
胸トラップで前に出したボールに、最初に触った一撃がシュートとなった。
「ま、まさかあのタイミングで、シュート撃って来るとは思わんかったぜ」
「ヤツが、世界の要人を暗殺したエージェント……」
「イヤ、ちげーから」
龍丸の天然のボケに、間髪入れずツッコミを繰り出す、野洲田。
河川敷の小さなグランドで始まった紅白試合は、序盤から白熱(ヒートアップ)した。
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