ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第7章・EP003

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清棲デッドエンド・ボーイズ

「喜べ、お前たち。地域リーグ・加入承認の知らせが、届いたぞ!」
 それは、4月も最終週に突入しようとしている時期だった。

「マジっスか、倉崎さん!?」
「ああ、マジだ、紅華」
 ポスティングを終えたボクと黒浪さんが事務所のドアを開けると、そんな会話が飛び込んできた。

「おめでとうございます、倉崎さん!」
「Excellent(エクセレント)!!」
 普段は冷静な、雪峰さんと柴芭さんが、ハイタッチで喜んでいる。

「イヤ、これも雪峰や柴芭が、書類を整え、各方面にも手を回してくれたお陰だ」
 まだ脚のケガも癒えない倉崎さんが、椅子から立ち上がって2人をハグした。

「いえ、倉崎さん。我々だけの力では、ありません」
「海馬コーチや龍丸たちが街頭に立って、リーグ加盟の署名集めや、チラシを配ってくれましたからね」
 ボクたちがポスティングをしている間、他のメンバーは署名とサポーター集めをしてくれていた。

「オレさまたちだって、ポスティングで頑張ったぜ。なあ、一馬!」
 ボクも、ウンウンと首を縦に振る。

「お前たちも、よくやってくれた。これでアイツの夢も、少しは叶えられたのかもな……」
 チームオーナーの机に置かれた写真立てに、目をやる倉崎さん。

 倉崎さんの弟は、病気で無く亡くなっていた。
ボクが倉崎さんから預かったスカウトノートも、元はと言えば弟のヤコブさんが、病を押してまで作ったノートなんだ。

「しっかし、よく申請が通ったっスね。オレてっきり、今年はムリだと思ってましたよ」
「ま、まあな」
 ナゼか、倉崎さんの目が泳いでいる。

「実際、普通なら申請は通らなかったと思うぞ、紅華」
「事務所も決めて無かったですし、フランチャイズタウンすら未定でしたからね」
 2人の優秀なスタッフが、言った。

「そうだよな、柴芭。んでけっきょく、どこがホームタウンになったんだ?」
「お前、先週話したろ。名北と清棲とでもめて、清棲になったんじゃねェか!」
「ああ、アレか。そうだった、そうだった。確かチーム名が……」

「『清棲デッドエンド・ボーイズ』……それがこのチームの、正式な名前だ」

 倉崎さんが、言った。
ボクが所属するチームは、やっと正式な名前を手に入れたんだ。

「正しく、ロスタイムに決勝ゴールってヤツね、倉崎」
 事務所のドアが開き、ヘトヘトになったメタボなオジサンが入って来る。

「お疲れ様です、セルディオスさん。この度は、ありがとうございました」
 うやうやしく頭を下げ、冷えたお茶を渡す倉崎さん。

「まったく……倉崎はもう少し、計画性を持つね。もうこんなの、懲り懲りよ」
「ハイ、わかってます、セルディオスさん」
 今度は茶菓子と、おしぼりをテーブルに置いた。

「な、なあ、今日の倉崎さん、妙に低姿勢だよな?」
「ああ、どうしてあんなに、ペコペコしてやがるんだ?」
 顔を見合わせる、黒浪さんと紅華さん。

「実は、デッドエンド・ボーイズが晴れて地域リーグに加盟できたのはだな。セルディオス監督が、地域リーグを運営するサッカー関係者や役員たちに、頭を下げて周ってくれたコトが、成功の1番の要因でもあるんだ」

「マジか、雪峰。あのメタボリッカー、そんなに顔が利くのかよ?」
「監督は古くから、日本サッカーを指導されてこられた方だ。その教え子が監督となり、プロのサッカープレーヤーにもなっている」

「おっちゃん、マジスゲーんだな」
「黒浪も、紅華も、少しは解って来たね。もっと尊敬して、構わないよ」
 待合室のソファーに寝転び、お茶を飲む監督。

「セルディオスさん、ビール買って来たっスよ」
 再び事務所のドアが開き、両手にビールの入った袋を持った、海馬コーチが入って来た。

「わお、待ってたね。さっそく、地域リーグ加盟祝いよ!」
「で、では、自分も……」
「海馬は、もっと痩せてからにするね。この間の試合、何点取られ……」

「ま、まあまあ。今日くらい、固いコトは抜きにしましょうよ。ささ、まずは1杯」
「そ、そう、仕方ないね……とと」
 弟子のメタボキーパーの杓を受ける、セルディオス監督。

「オイオイ、昼間っから酒を飲み始めちまったぞ」
「ど、どうすんだ、めっちゃビール買って来てるし」

「どうすると言われましても、こればかりは……」
「どうしようも、あるまい」
 柴芭さんや雪峰さんすら、サジを投げる。

 日が沈む頃には、事務所の待合室のソファーに、2匹のアザラシが寝転がっていた。

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