ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第六章・EP026

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

一瞬のスピード

 曖経大名興高校に与えられた、ゴール左側タッチラインからのスローイン。
ピッチを囲むように配されていたボールボーイを務める後輩から、ボールを受け取る棚香さん。

 このプレーを見て置けって、倉崎さん……なんの変哲もないスローインに見えるケド?

 ボクは、車椅子に座ったスーパースターの顔を覗き込むも、後ろからじゃ見えない。
仕方なくピッチに目を向けると、棚香さんがタッチラインから大きく後方に下がっていた。

「オイ、アイツなんであんな後ろに、下がってんだ!?」
「ロングスローだ、黒浪。みんな、マークを外すな!」
 雪峰さんが、的確な指示を飛ばしてディフェンスに合図を送る。

 中盤のキーパーソンである仲邨さんには杜都さんが付き、ゴール前では念のためか、龍丸さんと野洲田さんが岡田さんをマークした。

「へッ、オレのスローイングは、ただのロングスローとは一味違うぜ!」
 両手で頭の上にボールを掴み、助走を始める棚香さん。

「なッ! アイツ、ボールを地面に!?」
 棚香さんは、頭の上にあったボールを、ラグビーのタッチダウンのように地面に付ける。
そのまま大きな身体が、逆立ちをした。

「こ、これって!?」
 思わず声を上げる、ボク。
棚香さんはそのまま前方宙返りをし、反り返った身体のバネを利用してボールを飛ばす。

「うわあ、なんてスローインだ!?」
「これじゃまるで、コーナーキックやあらへんか!?」
 驚く黒浪さんと、金刺さんの遥か頭上を越えるボール。

 棚香さんのロングスローは、悠々とペナルティエリアまで到達した。

「大丈夫だ、ゴール前で龍丸と野洲田が、岡田ってヤツを完全に押さえてい……」
 紅華さんが言った通り、紅華さんの中学からの同僚2人は岡田さんを前後で挟んで、身動きが取れないようにしている。

「あッ!?」
 ……ハズだった。

「ゴール、ウチが先制したぜ!」
「さっすが岡田さん、決めるとこ決めるよなァ!」
 湧き立つ、ボールボーイたち。

 ボールは、海馬コーチの守るゴールネットを揺らした後、地面に転がっていた。

「バ、バカな。ヤツを完全に押さえていたハズが……誰の陰謀だ。どこの組織が動いている!?」
「陰謀かはともかく、確かにオレらは直前まで、アイツをマークしてたよな?」
 ゴールを決めた相手エースを見る、龍丸さんと野洲田さん。

「フフ、アイツらも驚いているようだな。一馬、お前と同様にな」
 だ、だって、そりゃ驚くでしょ!?

「岡田 亥蔵……ヤツは、特別背が高くも無ければ、足が速いワケでも無い。だがヤツは、オレたちの年代屈指のストライカーとして、何点も得点を量産して来た」
 ボクにも、岡田さんはそこまでスゴくは見えないのに……どうして?

「ヤツの武器は、スピードだ。それも、ほんの一瞬のな」
 倉崎さんが、言った。

「一瞬の……スピード?」

「カズマ、サッカーで求められるスピードは、陸上のスピードとはゼンゼン違うね」
 不機嫌そうな顔のセルディオス監督が、会話に入って来る。

「いいか、一馬。サッカーで求められるのは、より短い時間のスピードだ。陸上のように、100メートル走った時点で相手を上回っていても、それ以前に相手が先を走っていたらゴールを決められてしまうからな」

「岡田は、その究極の選手ね。棚香のロングスローのボールが落ちて来る直前まで、確かに龍丸たちは岡田を完全にマークしてたよ」

「だがヤツは、コンマなん秒という時点でマークを振り切って背後を取り、ジャンプしてボールに触ってゴールを決めたのさ」

「そんな……コトが……」
 ボクは、ピッチを気怠そうに歩く、岡田さんを見ていた。

「オイ、生意気な1年。今日は、高見の見物か?」
 うわッ、いきなり目が合った!?

「ケケ。心配しなくたって、オレら優しい先パイさまが、お前をピッチに立たせてやんぜ」
「ま、2~3人担架で運ばれりゃ、問題無ェよな」
 中盤の仲邨さんと、ハデなロングスローを決めた棚香さんも、ニヤニヤと笑っている。

「それは、どうかな?」
 車椅子から、声がした。

「オレたちは、プロのサッカーチームだ。高校のサッカー部との違いを、見せてやるさ」
 倉崎さんの言葉を受け、3人の目付きが鋭く変わる。

 く、倉崎さん、そんな大きなコト言っちゃって、イイんですかァ!?
ボクは、頭を抱えた。

 前へ   目次   次へ