ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP033

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背番号1の意地

「……ざけんじゃ無ェぞ、岡田。なんでオレが、1年と交代なんだよ!?」
 曖経大名興高校サッカー部の、厳つい男たちが押し込められた更衣室。
右腕をテーピングで固めた小柄なキーパーが、鋭い眼光の部長に意を唱えていた。

「オレは出るからな。この程度のケガで引っ込んでちゃ、1番なんざ背負ってらんねェんだよ!」
「つっても大丈夫かよ、川神。けっこうハデに、腕を痛めたように見えたが?」
 部長の替わりに、屈強な身体の棚香が小柄なキーパーを心配する。

「うっせ! お前が逆サイドケアしねーから、オレが無理やり戻ったんだろうが!」
「オレはあの脚の早いヤツ、見てたんだ」
「ボールクリアを優先しろよ。攻撃のセンスはあってもお前、守備センスはイマイチだよな」

「どうする、岡田。後半も、川神使うのか?」
「しゃ~ねえな。少しだけ、様子を見てやる」
 2人の口喧嘩を冷ややかな目で眺めていた仲邨の問いに、キャプテンが面倒臭そうに答えた。

「だがもし次に点取られたら、そん時は容赦なく交代させるからな」
「そう来なくっちゃ、キャプテン。ヤツらに、これ以上得点を献上する気は無ェぜ」
 キーパーグローブをハメ直しながら、気合を入れる川神 治晃。

「オイ、伊庭。今からアップして来い」
「ウス」
 1年生の長身キーパーは、岡田キャプテンの指示に従い部室を出て行った。

「それから千葉。テメーも、自分の言ったコトは、忘れて無ェよなァ?」
「はい、もちろんですよ。この試合、オレは後半だけでハットトリックを決めます」
 鋭い眼光を飛ばすキャプテンから、目を逸らすコト無く言い放つ、千葉 蹴策。

「そう簡単に、行くワキャ無ェだろ。ナマイキ言うのも、大概にしやがれ」
 千葉の胸倉を掴み上げ、殴りかかろうとする棚香。

「放してやんな」
「だ、だケド、岡田。コイツら1年、全員ナマイキで……」
「そろそろ、後半だ。行くぞ」

 岡田 亥蔵は、羽織っていたジャージの上着を床に落とし、立ち上がった。
紫色のユニホームを着た一団が、グランドに向かって歩み始める。

「オイ、ヤツら出て来よったで」
 2点目を上げた、金刺さんが目線で合図した。

「アン? 相手のキーパー、ケガしたと思ったケド気のせいだったか?」
「イヤ、ヤツの右腕は、テーピングでグルグル巻きだ。恐らく何らかの理由で、無理して出るのだろう」
 雪峰キャプテンが、優等生らしい見解を述べる。

「相手サイドのゴール裏を、見てください。キーパーのユニホームを着た長身の選手が、先ほどからアップしてます。何かあった場合、直ぐに交代できるように準備しているのでしょう」
 柴芭さんも、マジシャンらしい観察眼を見せた。

「理由は解からんが、得点できるチャンスってワケか?」
「ああ、紅華。ヤツの右腕側を、積極的に狙って行くぞ」
 雪峰キャプテンが円陣を組んで、チームの方針を皆と共有する。

「でも、なんか卑怯じゃね。そこまでしなくても……」
「なに言ってるね、クロ。ウチはアマチュアじゃなく、プロのサッカークラブよ。相手が弱みを見せれば、積極的に狙うのはとうぜんね」

「セルディオス監督の、言った通りだ。相手が手負いな状態の時に、しっかり決められる能力もプロには求められる」
 倉崎さんが、油断しないようにと釘を刺す。

「それにウチのキーパーは、手負いのキーパーより質が低いコトも、忘れちゃダメね」
「か、監督ゥ、そりゃないっスよ!」
 笑いと共に円陣は解け、グランドに散らばるデッドエンド・ッボーイズ。

 既に紫色のユニホームもグランドに展開しており、程なくしてホイッスルが鳴り響く。
ボクはその笛を、車椅子を押しながらベンチで聞いた。

「ね、ねえ、ちょっと……」
 後ろから、女の子の声がする。

「おわッ!?」
 振り返ると、そこには剣道の面があった。

「ど、どうしたの?」
 なんだ、沙鳴ちゃんか。

「後半が始まってんのに、どうしてダーリンはベンチなワケ?」
「ダ、ダーリン!?」
 ボクは思わず、大きな声で叫んでいた。

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