悪行三昧
ボクの母校である曖経大名興高校は、大都市の市内にあるコトもあって敷地内にグランドは無く、替わりに遠く離れた場所にグランドを持っていた。
川の堤防沿いを降った場所にある広大な敷地には、陸上コースに囲まれたグランドとナイター施設を備えた野球場があり、寮や更衣室など各種施設も備わっている。
「アレ、倉崎さん。アイツら、どこ行ったんスか?」
ウォーミングアップを終えて戻って来た、紅華さんが言った。
「ち、千鳥さんもいない!? オレさまが必死に走った努力って、一体……」
頭を抱える、黒浪さん。
「おかしな格好の、押し掛けマネージャーもいないでありますな」
「女が全員いないってコトは、連れショ……」
「コラコラ、紅華。そこはあまり詮索するところじゃ無いだろう」
「ヘ~イ、倉崎さん……って噂をしてりゃ、アイツら戻って来ましたよ」
アッ、ホントだ。
みんな、こっちに向って歩いて来てる。
でも、様子がヘンな気が……?」
「ち、千鳥さんが泣いてる!?」
黒浪さんが言った。
「ホントでありますな。おかしな格好の後ハイマネージャーに、肩を抱えられているであります」
「それに、アイツらの様子もおかしいぜ。こりゃ、なにかあったな」
紅華さんの予感は、敵中していた。
「アイツら、千鳥さんの……マ、マジかよ!?」
「こ、後ハイちゃんが直ぐに、竹刀でやっつけてくれたケド……もしかしたら」
目に涙を溜めた千鳥さんが、黒浪さんから顔を背ける。
「アタシらも、マイクロバスで着替えようと思ったら、窓から覗いて来てさ」
「カーテン全部締め切って着替えたんだケド、その間中バスを揺らされて大変だったよ」
「動物園のサルかって感じ、マジムカついた」
一応は、チアリーディングのユニホームに着替えた、7人の女子高生たち。
けれども、スゴい剣幕で怒っていた。
「千鳥さんを泣かせたアイツらを、ぜってー許さない。オレさまが、天罰を与えてやる!」
「オレの連れの女に手ェ出した罪、キッチリ償わせてやんぜ」
デッドエンド・ボーイズの誇る2人のドリブラーは、闘志に満ちた眼で相手のベンチを見る。
その視線の先には、更衣室から戻って来た紫色のユニホームの選手たちが、円陣を組んでいた。
「女マネージャーが2人もいやがって、あまつさえチアリーディングまで揃えてるチャラついたチームにゃ、負けるワケには行かねえ。ぜってー勝つぞ、テメーら!!」
「ウスッ!!」「オウッ!!」
曖経大名興高校サッカー部が、激しく気合を入れる。
「ヤレヤレ、どんな気合の入れ方ですか、まったく」
呆れ顔の、柴芭さん。
「こっちも負けてられないですよ、倉崎さん!」
「そうだな、黒浪。雪峰、円陣を組んで気合を入れてくれ」
倉崎さんの車椅子を押すボク以外の選手が、円陣を組んだ。
「相手はどんな卑劣な手や、悪質なファウルを仕掛けてくるかわからないチームだ。だがオレたちは、正々堂々と戦って勝つぞ!!」
「オウ!!」「ラジャー!!」
円陣が解け、両チームの選手たちがデコボコのピッチへと散らばる。
審判を務める、曖経大名興高校サッカー部顧問のホイッスルが鳴り響いた。
「千鳥さんを泣かせたお前らを、許すワケには行かない。オレさまがまず、1点決めてやるぜ!」
雑草に埋もれたセンターサークルで、紅華さんからボールを受け取った黒浪さんが仕掛ける。
「おい、慌て過ぎだ。グランドの状況を……」
「おわ、ボールがッ!?」
高速ドリブルを開始しようとした黒浪さんの足元から、イレギュラーしたボールが離れる。
「ヘッ、貰ったぜ」
仲邨さんが、いとも簡単にボールを奪い取った。
ワイルドなミッドフィルダーは、そのままドリブルを開始する。
「ここは、通させん!」
「杜都、バックアップはオレがする」
杜都さんと雪峰さんのダブルボランチが、猫背でドリブルする仲邨さんに迫る。
「オッと、危ねェ。オラよ、棚香 」
二人のプレッシングを受けて、仲邨さんは左サイドバックの位置にボールを戻した。
「行くぜ、退きやがれ!」
重量級のサイドバックが、ブルドーザーのようなドリブルを開始する。
「このまま行かせるワケには、行きませんね」
柴芭さんがコンタクトするも、棚香さんの突進をタッチラインに逃げるのがやっとだった。
「一馬、よく見て置け。棚香の次のプレイを」
車椅子に座った倉崎さんが、言った。
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