偽者カズマ
あの、チョット……ボクは、アナタたちが探してる人じゃ無いんです!
心の中で叫んでみたモノの、通じるハズが無い。
ボクは車を降ろされ、豪華なビルの中へと連れ込まれた。
エレベーターに乗せられ、屋上近くの広い部屋に通されるボク。
ど、どうしよう。
この人たち、完全にボクをロランって人だと思ってる。
「さ、ロランさん。ユニホームに着替えて下さい」
スーツ姿の男の1人が、ボクに蒼いユニホームを手渡した。
こ、これって、サッカーのユニホーム……だよね?
ユニホームを渡されたってコトは、ロランって人、これから試合だったのかな!?
ボクは少し迷ったが、仕方なくユニホームを着た。
背中を確認すると、ロランと言う名前がローマ字で刻まれ、大きく10番の背番号が入っている。
……ロランって人も、ボクと同じ青いユニホームで、同じ背番号を背負っているんだ。
「ロランさん、着替え終わりましたら急いでください」
「すでに記者会見が、始まってしまっています」
再びボクの両腕を、ガッシリとロックする2人の男。
へッ、記者会見!?
「では、参りましょう」
うわぁぁ!
ボクをサンドイッチした2人の男は、エレベーターに乗って1つ上の階で降りる。
結婚式場みたいな絨毯が敷かれた廊下を抜け、両開きのハデなドアを開き、部屋の中へと入った。
うッ、メチャクチャ人がいっぱいいるゥ!!?
部屋の中には、大勢の人たちが待ち受けていた。
フラッシュを焚くカメラマンに、色取り取りのユニホームを着た、見知らぬ人たち。
余りの光景に、ボクの意識は白くフェードアウトして行った。
~ここから暫(しばら)く、物語はロランの視点で進むコトとなる~
「フウ……どうやらアイツら、帰って行ったみたいだ」
川べりのススキの群生地から、出るロラン。
「それにしても彼には、悪いコトをしてしまった。だけど、あれだけボクにそっくりな美少年が居るだなんて、世界は奇跡に満ちているな」
一馬のボールをコロコロと転がし、遊歩道を進む。
「このボール、きっと彼のモノだよな。後できっちり、かえしてあげなくちゃ……」
「アレ、一馬!」
すると、遊歩道の先からスゴいスピードで走って来た少年が、ロランに声をかけた。
「……あ、ああ」
このボールの持ち主である彼は、カズマというのか。
だけど、やけに脚が速いこの少年は、誰だ?
カズマの知り合いなのは確かだろうが、名前が解らない。
「よ、クロに一馬じゃねぇか。お前ら、こんなところでなにやってんだ?」
堤防の上から、声がした。
見上げるとそこには、ピンク色の髪をした少年が立っていた。
「そろそろケガも治って来たんで、ランニングを始めたんだ。お前の方こそ、なにやってんだ?」
「オレか。倉崎さんに、事務所に呼ばれてな。雪峰のヤツも来てる。お前らも来るか?」
「そうだな。ランニングも何本か走ったし、行ってみるか、一馬」
「あ、ああ、そうだな」
「……え、一馬が喋った!?」
黒いジャージに褐色の肌の少年が、ナゼか酷く驚いている。
な、なんで喋ったくらいで、驚くんだ!?
もしかしてカズマは、普段あまり喋らないのか?
「そこまで驚くコトか、クロ。オレに対しても最初は一言も喋らなかったが、散々付きまとわれてからは多少は喋るようになったし」
「そっか。そうだよな、ピンク頭。ここんトコ、オレさまと一緒にポスティングしてたからな。多少は慣れたんだな」
クロにピンク頭じゃ、名前が解らないじゃないか。
本名を、言ってくれよ。
一馬と間違われたロランは、紅華 遠光と黒浪 景季の本名も解らないまま、デッドエンド・ボーイズの事務所に向かった。
「ここは……?」
「ふぇ、なに言ってんだ、一馬。ウチの事務所じゃないか」
「あ、ああ。そうだよな、ウチの事務所、事務所」
ドアに貼られた看板には、『デッドエンド・ボーイズ事務所』と書かれている。
普通の会社っぽい建物の3階か……ここは一体なんの事務所だ?
「お、柴芭や杜都たちも、来てるみたいだ」
「へー、なんでみんな、集まってんだ?」
こ、これ以上人数が増えるのは、勘弁してくれよ。
ロランは、紅華たちと共に事務所に入ると、応接室の椅子に座った。
壁に置かれた液晶テレビには、記者会見の映像が流れている。
「なんだ、みんなして応接室に集まっちゃって。ミーティングか?」
「イヤ、そうでは無いな、黒浪」
「実は、ウチのライバルと成り得るチームの、記者会見が始まっているのですよ」
「へー、そうなんだ。それが、テレビでやってるヤツか」
「ゲゲ、これウチの記者会見じゃん!」
テレビに映っていたのは、ロランが出席すべき、記者会見の様子だった。
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