真夜中を駆ける
「魔物がゴルディオン砦に降り立ったなど、到底あり得ない話です」
「例え夜間であろうと、物見が報告し迎撃するハズ」
「僭越(せんえつ)ながら、大型の鳥かなにかの、見間違えではないでしょうか?」
アルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの3人の少女騎士は、頑(かたく)なにバルガ王たちの目撃情報を否定した。
「かも知れねェが……黄金の翼を持った鳥など、この辺りに生息しているのか?」
「いえ、居りませぬが……」
「バルガ王は、この夜の暗闇の中でに……」
「遠くの砦に降り立った魔物の羽根を、識別できたのですか!?」
「ま、夜の海ん中は、こんなモンじゃないからな。この程度の月灯りがあれば、十分なのさ」
3人の少女騎士の問いに対し、バルガ王は言った。
「それで、どうするの。ゴルディオン砦に偵察ってんなら、アタシが行って来るわよ。大勢で押し込むより、アタシ1人の方が身軽だわ」
「それは我らザバジオス騎士団に、疑いの目を向ける行為ではありませんか?」
「いくらカーデシア様とは言え、聞き捨てなりません」
「ザバジオス騎士団は王都の剣であり、ゴルディオン砦は王都の盾なのですぞ!」
「残念だケド、戦乱のご時世よ。主に牙を剥く軍隊は、そこら中に居るわ。だからこそなにがあったかを、知る必要があるのよ」
カーデリアと、アルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの3人の間に緊張が走る。
「オイオイ、味方同士で揉めないでくれよ。まだなにがあったか、決まったワケじゃないんだ」
「そうだな、ベリュトスの言う通りだ。バルガ王は、どう判断される?」
キティオンが、判断を王に委ねた。
「さて、どうだかな。味方に偵察ってのも好みじゃねぇし、魔物が降り立ったのは気になる」
「それで、どうすんのさ」
「堂々と、訪ねてみるさ。ジャイロス殿とは、気が合いそうだしな」
「ど、堂々とって、王さま自らがこんな夜中にィ!?」
パッションピンクのショートヘアの少女が、驚きの声を上げた。
「オレは、王って柄じゃねぇしな。それにカーデリア……アンタ、死に急ぎそうな感じがしてな」
「ア、アタシが……そんなの、考えすぎだわ!」
「そうかい。だが、危険に身を置きたくなる気持ちも、解らなくもねェんだ。こっちも何人か、あの世に旅立っちまってるからよ」
夜空に上がった白い月を見上げる、バルガ王。
「……ゴメンなさい。アタシ、シャロが居なくなって、焦っていたのかも」
「わたし達こそ、申しワケございません」
「仲間を疑われて、取り乱してしまいました」
「ご容赦ください」
4人の少女たちは、和睦する。
「そんじゃ、迷惑だが大勢で押し掛けるとするか」
「悪いんだケド、馬は用意して貰えるかな?」
「では、女王に打診してみましょう」
3人の少女騎士は、主であるレーマリアにコトの次第を報告して、人数分の馬を借り受けた。
「スマンな、レーマリア女王。ムリを、言っちまってよ」
「いえ。ですが本当に、こんな真夜中に砦をお訪ねになるのですか?」
「用心に越したコタァ、無いしな。なにもなかったら、ジャイロス殿と朝まで酒を酌み交わすつもりだ」
「わかりました。でしたら、こちらをお持ち下さい。親書を、したためました」
「オウ、有難い」
バルガ王はレーマリア女王から親書を受け取ると、一行を引き連れて城門を出る。
カーデリアと、3人の少女騎士。
それに、ベリュトスとキティオンのお供2人を引き連れ、真夜中の道をひた走る。
「王都と重要拠点であるゴルディオン砦とは、それなりに道も整備されておりますが……」
「砦に近づくにつれ木々が生い茂り、道も荒れ果てて行きます」
「そのようにスピードを出されては、危険ですぞ」
3人の少女騎士の忠告も虚しく、スピードを緩めないバルガ王とカーデリア。
「バルガ王は、ホントに夜目が利くのね。驚いたわ」
「そっちこそ、オレよりも夜目が利くじゃねァか。流石は、バニッシング・アーチャーさまだ」
「でも、王の眼で見た魔物ってのが、信憑性が増して複雑な感じね」
「ま、取り越し苦労であるコトを、願うぜ」
2人を乗せた馬ははすでに、ゴルディオン砦の袂まで到達していた。
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