大魔導士の含蓄(がんちく)
ヤホーネス王国との同盟を締結した、バルガ王と2人の側近たちは、ザバジオス騎士団の騎士たちに護衛され港へと向かっていた。
「しかしレーマリア女王陛下も、気前がイイよな。オレのオシュ・カーの槍や、お前のカルキノスの鎧も、そのままいただけちまったしよ」
馬車に揺られながら、槍の穂先を手入れするベリュトス。
「その上、我らカル・タギアに中継基地の命名権まで下さるとは、思いも寄らなかったぞ」
彼の向かいに座った、赤い鎧を着たキティオンも相槌を撃つ。
「まだ若いながも、聡明な女王陛下だな。同盟を結べたのは、心強い限りだ」
オレンジ色の髪の王が、言った。
「お袋が死んで、オヤジが大魔王にされちまって、街も半壊して……ここのところ、悲劇続きだったカル・タギアに、ようやく明るい知らせが持って帰れそうだぜ」
バルガ王は、馬車の窓を開けて前を見る。
ジャイロス団長は不在であったが、かつてザバジオス騎士団に所属したアルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの3人の少女騎士が、代理として護衛部隊を率いていた。
「それにしても……恐ろしく変わった馬車だな」
窓から後ろを向き、首を傾げる王。
王や側近の乗る馬車の後ろには、紫色のチューリップのような馬車が追走していた。
オレンジ色の花弁のようなモノが8方向に生え、触手のようにツルも伸びている。
小さな8つの車輪に板を繋げた輪っかが巻き付き、4頭の首の無い馬が異形の馬車をけん引していた。
「アレが、ヤホーネスの5大元帥の1人、リュオーネ・スー・ギルの馬車ですか」
「確かになんとも風変わりな、馬車だな」
逆側の窓から、後ろを確認する2人の側近。
「我々の船に、乗船するとのコトですが……」
「魔導の研究をされてる、元帥か。わたしらじゃ、なにを話せばいいか解らんぞ」
「シドン辺りとは、気が合いそうなんだがな」
3人とも首を窓から引っ込めて、馬車の席へと座り直した。
「ところで、ベリュトス。中継基地への航路は、どんな感じだ?」
「カル・タギアまでの航路を、海岸沿いに多少迂回する程度ですね」
「だが暗礁などあっては、一大事だぞ」
「兄貴と何度か漁船で周った辺りだが、暗礁があるかは村の漁師たちに聞くしか無いだろう」
幼馴染みの少女の忠告を受け、ベリュトスは航路の安全性を気にかける。
それから、王ら一行を護衛するザバジオス騎士団は、港町へと到着した。
バルガ王は、3人の少女騎士たちに別れを告げ、波沈め号(ウェーブスイーパー)に乗り込む。
海の上を飛ぶように走る船は、最初の中継基地の候補地へと向かった。
「ここにも、それなりの規模の村があったハズなんですがね」
「津波に、持って行かれてしまったのか……」
船を湾に停泊させ、現地に降りるベリュトスとキティオン。
「王はこのまま、ご客人と共にカル・タギアに向って下さい」
「イヤ。客人などと、気を遣わんでくれ」
ベリュトスの言葉に反応したのは、リュオーネだった。
「まだ日も浅い。このまま現地調査を行っても、夜にはカル・タギアに辿り着けるハズさ」
褐色の肌の大魔導士は、船の縁(へり)からフワリと飛び降りる。
「さ、流石は魔導士サマだぜ。宙に、浮かんでる」
「ホウキには、乗らないんだな」
「わたしも、イイ歳だからねェ。ホウキなんぞに跨(またが)るのも、躊躇(ためら)われるのさ」
少女にしか見えないリュオーネは、山に向かって進んで行った。
「あ、あの、大魔導士サマ。村は、あちらなんですが」
「リュオーネで、イイよ。村に行ったところで、誰も居ないだろうね。生き残っているのなら、恐らく高台へと避難しているさ」
大魔導士の見識の深さに、納得し後を追うベリュトス。
王とキティオンも続き、一行は深い森へと別け行る。
「よく手入れされた、森だねえ。良い魚が、獲れるハズだよ」
「森に、川が流れているのですか?」
キティオンが、リュオーネに尋ねる。
「まあ何処かには、流れているんだろうがね。そう言う話じゃないのさ。キレイな森は美しい水を育(はぐく)み、川を降った水はやがて豊かな漁場を創り出す」
「は、はあ……」
「お嬢ちゃんには、まだ難しかったかね。ホラ、見えて来たよ」
大魔導士は、山の麓(ふもと)にある村を指さした。
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