疑念の砦
その夜、女王レーマリアやヤホーネスの首脳陣らとの会議を終えたバルガ王は、再建中の城壁に背を持たれかけて、涼んでいた。
「バルガ王、こちらに居らしたんですか?」
「おう、ベリュトス。オメーも、パーティーを抜け出して来た口だろ」
「まあ、そうっスね。地上の獣の味は、どうも好きになれなくて」
「オメーも、根っからの漁師だな。兄貴にそっくりだ」
「そう言って貰えると、なんだか嬉しいっすね。兄貴にゃ、まだまだ及ばないんですが」
「こっちもだ。どうもティルスに、身の回りの世話をして貰ってたお陰でな。アイツが死んでからと言うモノ、やたらと不便で仕方がねェ」
2人は、夜空を見上げる。
雲間から覗いた月に、亡きビュブロスとティルスの面影を想い浮かべていた。
「……ン。月の前を、今なにか横切らなかったか?」
バルガ王が、ベリュトスに問い掛ける。
「空を飛ぶ、魔物かなにかみたいですね」
「かもな。かなりの数が居やがるぜ」
2人は闇夜を飛ぶ魔物たちを、目で追った。
「山の上にある砦辺りに、降りたようですね」
「ありゃあ、なんて砦だ。解るか、ベリュトス?」
「恐らく、ゴルディオン砦。ザバジオス騎士団の、詰めてる砦ですね」
「ヤホーネスに来たときに出迎えてくれた、ジャイロス・マーテス殿の率いる騎士団だな」
「はい。そう言えばジャイロス様は、今日の会議にも晩餐会にも、出席されてませんでしたね」
「レーマリア女王の話じゃ、元々ジャイロス殿は晩餐会は苦手だったらしいが、会議に出ないのは珍しいとか言っておられたな」
「どうも、嫌な感じがしますね」
「ああ。少し様子を探ってみるか?」
「え……ですが砦までは、かなり距離がありますよ?」
遠くに連なる山の上に築かれた砦は、その巨大さ故に近くに感じられるものの、実際にはかなり遠く高低差も存在した。
「気にはなるが……諦めるしかねェか」
「何を諦めるというのだ、バルガ王?」
2人の背後から、聞き覚えのある声がした。
「お前、キティ……それに?」
ベリュトスが、幼馴染みのキティオンに問う。
キティの背後には、4人の少女がいた。
「確かアンタらは、女王の側近の……」
「我らはまだ、正式に名乗ってはおりませんでした。ご無礼を」
3人の少女騎士が、丁寧な作法でお辞儀をする。
「わたくしは、アルーシェ・サルタール」
「わたくしは、ビルー二ェ・バレフール」
「わたくしは、レオーチェ・ナウシール。以後、お見知りおきを……」
「こちらこそ、宜しく頼むぜ。ところでアンタらの鎧、ザバジオス騎士団のモノとソックリだな?」
「わたくし達は、レーマリア皇女が女王になられるに当たって、側近として配属された身」
「元々はザバジオス騎士団にて、騎士見習いとして鍛錬をしていたのです」
「今でも、騎士としての心構えは、変わってはおりません」
凛とした態度で答える、3人の少女騎士。
全身に女性らしい形のプレートメイルを装備し、腰にはウルミと呼ばれる剣を巻いていた。
「もう1方は、カーデリアさんですね?」
ベリュトスが、パッションピンクの髪の少女に伺いを立てる。
「ええ、そうよ」
少女は、短く答えた。
「シャロリューク・シュタインベルグが死んだってのは……ホントかい?」
バルガ王は、あえて踏み込んだ発言をする。
「チョ、チョット、バルガ王。いくら王さまだからって、して良い質問と悪い質問が……」
「大丈夫よ、キティ。いつまでも、クヨクヨしてられないモノね」
赤い重鎧を着た少女を、カーデリアは制した。
「アタシだって、覇王パーティーのバニッシング・アーチャーと呼ばれた女よ。いい加減、死人の話ばかりもしてらんないわ」
普段通りの顔と仕草で、振る舞うカーデリア。
バルガ王も、ベリュトスやキティオンも、カーデリアの本来の髪型を知らなかった。
ロングのポニーテールがトレードマークだった少女は今、ショートヘアをしている。
「ところで、ゴルディオン砦に魔物が入ったってのは、ホントなの?」
「な、なんでそれを!?」
カーデリアの地獄耳に、驚くバルガ王。
「こう見えて、覇王パーティーの先鋒で盗賊でもあるのよ。どうやら、ホントみたいね」
「ど、どう言うコトなのです、カーデリア様!?」
「ゴルディオン砦と言えば、我らサバジオス騎士団の本拠地です」
「魔物などと……なにかの見間違えでは!?」
3人の少女騎士は、かつて拠点としていた砦の仲間たちに疑いの目が掛けられているコトを、瞬時に察した。
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