星と無限
パシャパシャと鳴るシャッター音と共に、眩いフラッシュが焚かれている。
「さて、皆さま。今回紹介できる最後のチームが、総合スポーツ施設をベースとする、エトワールアンフィニーSHIZUOKAとなります」
日高オーナーが、集まったカメラマンや記者たちに向かって宣言した。
「我々の得たの情報では、エトワールアンフィニーはスポーツクラブが元になっていると。それは、どんなクラブだったのですか?」
「静岡は、サッカー王国として名を馳せた県ですからね。エトワールアンフィニーの母体となったクラブも、例に漏れず小さなサッカークラブでした。それを発展させ、総合スポーツ施設としてオープンさせたのです」
「ボクたちのクラブを……乗っ取ったクセに……」
ボクの隣で、誰かが小声で呟いた。
隣をチラリと見ると、美形な男の人がなんだかムツカシイ顔をしている。
「今後はマリンスポーツにも手を伸ばされるとのコトでしたが、選手たちにもやらせるのですか?」
1人の記者の滑稽な発言に、笑いが起き場の空気が和んだ。
「いえいえ、もう既にやっているコたちが居るのですよ。サーファーに、スキューバダイビングとかね。マリンスポーツではありませんが、漁師だったコも居るんですよ」
「マジですか」
「ええ、マジです。シャル、選手の紹介をお願い出来るかな?」
再び沸き上がった笑い声の中で、1人の男の人が立ち上がる。
その人は、ウェーブのかかった白っぽい金髪に、蒼い目をしていた。
「ご紹介いただきました、チームオーナーの、壬帝 輝流(みかど シャル)です」
若々しく凛々しいオーナーが、フラッシュのシャワーを心地よさそうに浴びている。
「壬帝オーナーは確か、Zeリーグで活躍されてましたよね」
「現役当時は、フランス人と日本人のハーフ選手というコトで、話題になった記憶があります」
「皆さん、素晴らしい記憶力だ」
見た目に反する流暢な日本語で答える、シャル。
芸能デスクが殆(ほとん)どの記者たちからも、笑みが零れた。
「わたしは、父が日本人、母がフランス人です。現役時代に日本国籍を取得しましたが、シャルルマーニュと言う、フランスの名前も持っているのですよ」
「そんなオーナーが目指すクラブは、やはりフランス的なのですか?」
「エトワールが『星』で、アンフィニーは確か『無限』……どちらも、フランス語ですしね」
「みなさん、お詳しい。ですが我々のクラブ、エトワールアンフィニーは、数々の近代的な施設や器具を取りそろえた、最先端のクラブとしてオープンする予定です。選手たちも、スポーツ医学に基づいた最新のトレーニング法で、強化を図るつもりですよ」
「なるホド、これは楽しみなチームが生まれそうだ」
「では、選手紹介をお願いします」
今度は、記者席の方から催促の声が上がる。
「Je comprends.(了解しました)。まずは、わたしたちのキャプテンを、紹介致しましょう。背番号10、詩咲 露欄(しざき ロラン)です」
シャルって人が大きな声で、ロランを紹介した。
ロラン……ロランか……聞き覚えが……アレ、ボクのコトじゃん!?
よく見ると、記者席のカメラが全部、ボクの方を向いている。
ど、どど、どうしてこんなコトに……!?
練習場のある河べりで、ロランって人と偶然遭って、黒服の人に拉致されて……。
それから、ホテルに連れ込まれて、ユニホームに着替えさせられたんだ。
「ロランさん、先ホドから一言も喋られませんが……?」
「どうかなさったのですか?」
「そう言えば、遅れて来られたみたいだし、体調でも悪いのでは?」
うぎゃあ、ロ、ロランの替わりに、な、なにか喋らないと……。
意を決して顔を上げると、記者の人たちのマイクが全てボクに向けられていた。
……って、ムリムリ、普段ですら人前じゃ緊張して喋れないのに、こんな記者会見場でフラッシュ浴びながらなんて、絶対にム~リ~!!?
ボクはまた、意識を失いかけていた。
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