重金属の少女
まる裸の幼馴染みが、舞人の上へと覆い被さる。
「おわァ、重たッ!?」
それを支えきれなかった蒼い髪の勇者は、ベッドに倒れ込みパレアナの下敷きとなった。
『女性に対して、適した発言ではありませんね。最もラ・サは、流体金属を素材に製造された個体です。表面上は人間へと変化しているとは言え、重量は変わりませんから』
そう告げるとトゥーラ・ンは、家の外へ出て銀翼の翼を広げる。
「……チョ、どこへ行く」
『用は済みました。わたくしは、主の元へと戻ります』
「待って。お前にはまだ、聞きたいコトが……」
『詳しいコトは、ラ・サに聞いて下さい。その者は、アト・ラティアの事象の多くを知っていますから』
舞人にそう告げると、女神の姿の重機構天使(メタリエル)は宙へと舞い上がる。
「パレアナは……パレアナは無事なんだろうな!」
『心配には及びません。我らが役目は、アト・ラティアの血を途絶えさせぬコト。ですが、貴方に1つだけ言っておきます』
「な、なんだ!」
舞人は、一きわ重くなった幼馴染みに、圧迫されながら叫んだ。
『我ら重機構天使は、古代アト・ラティアの科学によって生み出された、最高クラスの兵器です。ですが、その全てが目覚めたワケではありません』
メタルの天使は、カル・タギアを包む泡のドームを突き抜けると、空の遠くへと消えて行った。
「どう言う意味だ……まだ、アイツみたいなヤツが、居るってコトなのか」
舞人は思案するも、ラ・サの重みで圧迫され頭が回らない。
「こ、困ったな。パレアナ……ラ・サだっけ。悪いんだケド、退いて……ン?」
裸の幼馴染みの少女に変異したしたラ・サを、必死に退けようとする舞人。
2人の倒れているベッドの傍らに、誰か居るのに気付いた。
「のう、ご主人サマよ。なにがどう困ったと言うのじゃ?」
彼が顔を横に向けると、漆黒の髪の少女が冷めた眼差しで立っている。
「へ……ち、違うんだ、ルーシェリア!」
一糸纏わぬパレアナに、覆い被された舞人。
「わたしが少し目を離した隙に、そのコと一体なにやってんのさ!」
半透明な鎧を着た黄緑色の髪の少女も、仁王立ちで彼を睨んでいる。
「聞いてくれ、スプラ。これにはワケがあるんだよ!?」
舞人は、ベッドの上で必死に弁明した。
「妾が必死に看病してやったと言うのに、ご主人サマと言う男は!!」
「ダーリンったら、鬼畜、不潔、サイテー!!」
その後、舞人は2人の少女のあらゆる攻撃を受け、ボコボコにされる。
「なんじゃ。そのモノは本物のパレアナでは、無いのかえ?」
「それならそうと、始めから言ってくれればいいのに」
「言う間も、無かったじゃないか……」
スプラの触手の回復魔法で治療されながら、ボヤく舞人。
「それは、仕方なしじゃ。ご主人さまが、裸のパレアナとベッドで抱き合っておったのじゃからな」
「誰だって、あんな光景を見れば、ギッタンギッタンのボコボコにしたくなるよ」
「パレアナの裸なんて、子供の頃から見飽きて……痛ってェ!?」
「ダーリンは、女のコの扱いが、ぞんざい過ぎなんだよ。誰を選ぶにしたって、もっと大事にしてあげなきゃダメなんだからね」
「お主も、触手で締め上げるのも、ホトホトにして置け。こっちもまあ、こんなモノじゃろ」
ルーシェリアは、目の前の栗毛の少女に服を見繕って着せていた。
「パレアナって、やっぱ可愛いよね。どんな服でも、似合っちゃう」
スプラが感心する。
パレアナの姿をしたラ・サは、艶やかな海洋民族の衣装を見事に着こなしていた。
「それにしてもこのコ、ホントにパレアナに瓜二つだよね」
「じゃがこの娘は、重機構天使とやらが残して行った従者なのであろう?」
「トゥーラ・ンって重機構天使は、そう言っていたよ。アト・ラティアについての詳しいコトは、ラ・サに聞けって」
「ねえねえ、それじゃさっそく聞いてみようよ」
「モノは試しじゃ。ラ・サとやらよ。アト・ラティアの王族について教えてはくれぬか?」
ルーシェリアが問いかけてみたものの、ラ・サから返事は返ってこない。
「なんじゃ。なんの反応も無いではないか」
「そう言えば、会ってから一言も喋ってないんじゃない?」
「言われてみればそうじゃのォ。もしかしすると、何かの罠やも……」
「ねえ、ラ・サ。アト・ラティアについて教えてくれないか?」
諦めかけていた2人の隣で、舞人もラ・サに問いかける。
「ムダじゃない、ダーリン?」
「どうかのォ。あるいは……」
『了解いたしました。マイ・マスター』
栗毛のラ・サは、片膝を付いて傅(かしず)いた。
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