ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第55話

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最強のギターデュオ

 音楽が中断されたステージには、容赦のないブーイングが浴びせられていた。

「……シア……ミア、リア……カンニンな……」
 真っ赤なカニ爪ギターを抱えながら、立とうとする真っ赤なショートヘアの少女。

「やっと、立ち上がったか」
「だったら、さっさと掃けろよ」
「まったく、次はメインディッシュが待ってんだ」

 そこに同情の声は無く、キアの瞳には、自分に向かって野次を飛ばす最悪のステージが映っていた。

「どうやらこれが、彼女たちの最初で最後のビッグステージになったようだね」
 久慈樹社長が、小さなため息を付く。

「そんなコト無いわ。確かに今日は失敗だったかもだケド、いつかまた……」
 キアを必死に擁護する、ユミア。

「どうだろうね。彼女に再びピックを握る、勇気があるかどうかが疑問だよ」
 久慈樹社長と同じ懸念を、ボクも抱いていた。

 ステージに立つキアは、ギブアップ寸前のボクサーのように、揺ら揺らとしている。
恐らく、今日のステージでの失態は、他の誰かが許せても、自分自身が許せないだろう。

「見給えよ。観客席はアイドル見たさに訪れたアイドルファンが多くを占めている。ロックバンドは、彼らの嗜好(しこう)から外れるモノだ。上手く行っているならいざ知らず、演奏が中断したとあっては、自ずと厳しい態度を取るのも仕方のないコトさ」

「み、見て、ステージ……」
 ユミアが、真正面にあるステージを指さす。

「キアの前に、双子の妹がいるよ、先生!」
「ミアちゃんと、リアちゃんなのですゥ」
 レノンとアリスも、自分のコトのように感情移入していた。

「どうやら、姉に寄り添う気のようだね。涙ぐましい、光景だよ」
 白々しい感想を述べる、久慈樹社長。
観客席からのブーイングも、少しだけ静まっていた。

「まったく、なにしとんのや、キア姉!」
 リズムギターをかけたミアが、仁王立ちで姉を叱咤する。

「ピック落としてまうなんて、キア姉らしゅうないわ!」
 ベースを持ったリアも、似たように腰に手を当て怒った。

「ミア……リア……スマン……」
「スマン、あらヘンわ!」
「なに泣いとんのや!」

「ミア、リア……アンタらの気持ちもわかるケド、その辺にしときィ」
 双子姉妹の厳しい言葉に、カニ缶ドラムセットを前に泣いていたシアも、涙まみれの顔を上げる。

「シア姉は、黙っといてんか。今は、キア姉と話しとんのや」
「せやな。今のキア姉には、コイツがお似合いや」
 するとリアが、自分のカニ爪ベースギターを姉に差し出す。

「……リア?」
 真っ赤な目の姉は、妹たちの行動の意図が解らず呟いた。

「今日のキア姉は、ベースや。そんくらい、できるやろ?」
 ミアが、キアのカニ爪メインギターを取り上げると、自分が肩にかけていたカニ爪リズムギターを、リアに渡す。

「キア姉、ベース舐めたらあかんで。ちゃんと、弾きいや」
 リズムギターを受け取ったリアが、ベースを持った姉に向かって言った。

「皆さん、お待っとさん。今日は姉が、しょ~もない失敗しよってスマンかったな」
 ミアが、姉張りのボイパで観客席に向って叫んだ。

「誰も、待ってねぇよ!」
「グダってないで、さっさと引っ込め!」

「知っとったわ!」
 リアの返しに、会場から笑いがこぼれる。

「まあまあ、お客さん。メインデッシュはここからやで」
「ウチらの演奏、聞いて行かな大損や!」
 ミアとリアが、メインとリズムの2本のカニ爪ギターを、『ギャオン』と鳴らした。

「あ、あのコたち……会場を、黙らせた?」
 ユミアが、顔の前で手を合わせて驚いている。

「ほな、もっかい最初っから行くでェ!」
「シア姉、合図や!」

「ウ、ウン……ワン、ツー、スリー、フォー」
 慌ててシアが、再びスティックを打ち鳴らす。

 ミアとリアの2つのカニ爪ギターが、会場中に鳴り響いた。

「ス、スゴいよ、先生。あのコたち、キアみたいにちゃんと弾けてるわ!」
「ああ……そうだな」
 傍らで叫ぶユミアの声も、届かないくらいの轟音で鳴り響く2つのギター。

「ミアの速弾きも、キアに比べて粗削りではあるが、速度は十分に出ている。リアのリズムギターも、速弾きの1部を補って演奏しているのか」
 双子姉妹の息の合ったカニ爪ギターは、力強い音を繰り出していた。

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