3つものチーム
ボクを押し込めた車は、堤防の道からトラス橋に向けて走り出す。
運転手さんは別に居るようで、ボクの左右は2人のスーツ姿のオジサンでガードされていた。
ど、どうしよう。
早く人違いだって、言わないと……。
でもこの人たち、初対面だしなァ!?
喋れないボクを乗せた車は、見慣れた河川敷の練習場を後にし、街中に向かって行く。
~その頃~
「ほんっと、サッカーチームってより、アイドルね。ユニホームもバラバラだし!」
ボクの家では、取り残された奈央が、ボクの家のテレビを見続けていた。
「これだけ美形揃いで、しかも全員サッカーが上手いなんて信じられないわ。でも、あのシャイ・ニー事務所が手掛けてるんだし、ホントなのかも」
『ところで、日高オーナー。肝心のチーム名は、決まっているのですよね?』
記者の1人が、立ち上がって質問をぶつける。
『本日、紹介するのは、エトワールアンフィニーSHIZUOKAと、フルミネスパーダMIE、1FC(エルストエフツェー)ウィッセンシャフトGIFUになります』
日高 成瓢(ひだか せいひょう)の、元俳優らしい渋い声は、その場に居た記者たちを驚愕させた。
『えっと、今なんと仰いました?』
『3チームの名を、挙げられたように聞こえましたが……』
『はい。本日は、我々シャイ・ニー・グループがプロデュースし立ち上げる、3チームを、ご紹介しようと思って皆サマに集まって貰いました』
『あ、頭の理解が、及ばないのですが!』
『日高オーナーは、歌って踊れるサッカーチームを、3チーム同時に……』
『プロデュースされると、仰るのですか!?』
『いえ、実は名古屋にもう1チーム、プロデュースする予定なのですが、本日の発表には間に合いませんでした。申し訳、ございません』
「うわあ……なんだか、とんでも無いコトになっちゃってるよ……」
いつの間にか、テレビに夢中の奈央。
ボクが飲み干した、オレンジジュースのグラスの氷は、既に溶け落ちていた。
『せ、選手のユニホームのデザインが、ずいぶんと異なるとは思っていたのですが……』
『本番用のユニホームではなく、てっきりアイドルステージ用のモノなのかとばかり』
『それではオーナーは、愛知、岐阜、三重、静岡の4県に、それぞれチームを置くのですね?』
『その通りです。名古屋には元々、シャイ・ニー事務所の支部がありますからね。今でもアイドルを目指すコたちが、日々研鑽(けんさん)に励んでいるのです』
『他の3県は、どう言った理由なのでしょうか?』
1人の女性記者が、質問する。
『三重には我々の、モータースポーツのチームがあります。静岡には、総合スポーツ施設をオープンさせました。岐阜にも、科学分野の研究施設をオープンする予定です』
『確か去年、三重のモータースポーツのチームから、ヨーロッパにチャレンジするドライバーが居ましたよね。名前を、なんと言ったか……』
『ええ、彼も数年のうちに、皆サマに名前を覚えられる存在になると、信じております』
『静岡の総合スポーツ施設とは、具体的にどんなモノなのですか?』
『静岡は元々サッカー王国と呼ばれるホド、サッカーの盛んな地域です。それ意外のスポーツ……例えば、サーフィンやマリンスポーツなどの環境を、整備しているところです』
『なるホド。では岐阜は、件(くだん)の大学との、共同研究プロジェクトを……』
『ええ、素粒子学の共同研究所があります。1FCウィッセンシャフトGIFUは、大学在籍の選手も居るのですよ』
『それではオーナはー、サッカー以外の分野から、人材を集めて来られたと?』
『Zeリーグは理念として、サッカー意外のスポーツ文化の発展も、謳っていますからね。問題はないでしょう』
『ですが選手たちは、サッカー以外にアイドルとしての仕事も、こなさなけらばなりませんが?』
『地域リーグから、始めるコトになりますからね。他のチームの選手も、アルバイトや副業をして生計を立てているのが、実情です』
「そっかぁ。カーくんも、ポスティングのバイト始めたみたいだし、サッカーも下の方のチームは大変なんだよね」
氷の解けたグラスに、目をやる奈央。
『ところで、オーナー。先ほどから気になっていたのですが、席が1つ空いているみたいですが?』
「あ、それ、わたしも気になった!」
『え、ええ、そうですな。誠に申しワケない』
女性記者の再びの質問に、始めて弱みを見せる日高オーナー。
『エトワールアンフィニーSHIZUOKAの、中心選手であるロランと言う選手が、記者会見を嫌がりまして……』
『それは、彼のコトでしょうか、オーナー?』
すると、女性記者はオーナーの背後のドアに目を移す。
「カ、カーくん!!?」
ドアが開き、左右を屈強なスーツ姿の男に囲まれた、青いユニホーム姿の少年が連行されて来た。
前へ | 目次 | 次へ |