ベルナール フィツ べリック
デッドエンド・ボーイズと同じ地域リーグに所属するチームが、こないだまでフランスのトップリーグに所属していた選手を、3人も揃えてるなんて!?
記者会見場で硬直したままのボクであっても、流石に耳を疑った。
「ヴォーバン選手、ヴィラール選手、ヴァンドーム選手は、日本での知名度こそ低いモノの、コアなサッカーファンならその実力を知るであろう、フランスのスター選手です」
それはそうでしょ。
普通なら、日本の地域リーグになんて絶対に来ない選手だよ。
引退間近ならともかく、油の乗り切った選手を3人も、どうやって連れて来たの?
「エトワールアンフィニーSHIZUOKAは、結成されたばかりですからね。3人の経験値は、貴重な財産になってくれるハズです」
しっかりとした受け答えで、選手紹介を続けるオリビ。
「我々サッカー素人には、彼らのスゴさは解りませんが、よく日本の地域リーグに来られましたね?」
「それ、ウチも疑問に思ってました!」
「日本のZe1リーグや、せめてZe2ならともかく、よりにもよって……オッと、失礼」
「彼ら3人を日本に連れて来たのは、日高グループのブラックマネーの力と言ったところでしょうか」
けれどもボクの隣に座った美男子は、いきなりトゲのある言葉を投げつける。
一瞬、静まり返る記者会見場。
「オイ、オリビ。ここは、記者会見場だぞ……」
「すみません、シャルオーナー。ブラックユーモアのつもりだったのですが……まだ、慣れませんね。こう言う場面は」
表面上は、謝罪するオリビ。
でもボクには、少しも謝っているように思えなかった。
「実は、彼ら3人がウチに所属する仲介をしてくれたのが、ベルナール フィツ べリック選手。彼はシャルオーナーの肝入りで来日されたフランス人で、現在は日本に帰化申請をしておられます」
「ボンジュール(始めまして)、皆さん。ベルナールです」
オリビに紹介された、ベルナール選手が挨拶をする。
「わたしは、シャルオーナーがフランスリーグに挑戦されていたときに、同じチームのジュニアチームに居たのですよ。そこでオーナーのプレーに憧れて、日本にも興味を持ちました」
ベルナール選手は、金髪を編みこんだロングヘアで、口には不精ヒゲを蓄えている。
けれどもまだ、24か25歳だったハズ。
「来日後は、Ze1の福岡に所属してました。でも、シャルオーナーに声を掛けられて、2つ返事で承諾してしまいました」
「福岡には、悪いコトをしたと思っているよ」
「プロサッカーは、ビジネスです。仕方ないね」
そう言えば、去年の半ば辺りにベルナールさんが抜けてから、福岡は調子を崩して2部に降格しちゃったんだよね。
「それでエトワールアンフィニーの一員になってから、オーナーに戦力補強について相談されましてね。フランスのジュニアユース時代にチームメイトだった、3人を紹介したのですよ」
「ベルナール選手の事情は解りましたが、他の3名はよく来日されましたね」
「まあね。彼らも、わたしと同じ趣味だから……」
「え……今、なんと?」
「なんでも無いですよ、アハハ……オリビ、次、頼むわ」
乾いた笑いで、ボクの隣の選手に目配せするベルナール選手。
「ハイハイ、解りましたよ」
ため息交じりに、顔を上げるオリビ。
「では皆さま、いよいよ最後の選手紹介となります。紹介するのは、我らがキャプテン……」
へェ、今度はキャプテンの紹介なのか。
………ん、待てよ?
このチームのキャプテンって!?
「詩咲 露欄(しざき ロラン)!」
オリビは高らかに、ロランの名前を呼んだ。
ロ、ロランって、ボクのコトじゃないかァァァーーーーーッ!?
ボクは再び、意識が吹っ飛びそうになっていた。
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