決意のキティ
「バルガ王、ベリュトスが謁見を申し出ております」
若き海洋生物学者が、山積みにされた書類に埋もれる王に言った。
「シドン、お前嫌がらせか。ンなモン、勝手に通せよ」
海底都市であるカル・タギアには、崩壊してしまった神殿はあったものの城と呼べる施設は無く、替わりに御殿のような建物が政治中枢機構として機能している。
「バルガ王、すでに王となられたのですから、もっと威厳のある言葉遣いを……」
「上っ面なんざ、どうだってイイだろ」
その最深部にある部屋の、豪奢な椅子に居心地悪そうに座った王が反論した。
「それよりこの書類の山、お前が何とかした方が早く無ェか?」
「仕方ありませんね。では前を少し開けますので、ベリュトスに会って下さい」
そう告げるとシドンは、王の前に済まれた書類の何束かを持って、自分の席に向かう。
「よォ、ベリュトス。久しいな」
「忙しいトコ、すいません。バルガ王」
「お前とオレの仲だ。堅苦しい話は、抜きにしようぜ。それより、なんの用だ?」
書類の山から、束の間解放されたバルガ王は、大きく伸びをした。
「実は……」
すると、ベリュトスの後ろから、真っ赤な鎧を着た少女が姿を現す。
少女は、桜色のゆるふわショートヘアで、ピーコックグリーンの瞳をしていた。
甲殻類の甲羅で作られた鎧からは、2本の長い触手が伸びている。
両方の腰には、湾曲した2つの刀身を持った剣を下げていた。
「なんだ、キティオン。まだ、殴り足らねェのか?」
「いいや、話はベリュトスから聞いた。ホントに悪いのは、サタナトスってヤツなんだろ?」
少し項垂れながら答える、キティオン。
「どうだなか。少なくとも、このカル・タギアをこんなにしやがったのは、ソイツの仕業だ」
「それだけでは、ありません。あろうコトか、海皇様と7海将軍を自らの剣の能力で魔王にして操り、配下として使っているのです」
王を補佐する、シドンも情報を提供する。
「イカの小娘とガラ・ティアだけは、なんとか味方に戻ってくれたがの。大魔王となったダグ・ア・ウォンや他の7海将軍は、ヤツの手先のままじゃ」
「ム、お前は誰だ!?」
「妾か。妾は、ルーシュエリア・アルバ・サタナーティア。冥府の魔王にして、暗黒の魔王じゃ」
「な、なんだって!?」
「止めろ、キティ……つかお前、よくそんな簡単に信じれんな!」
両腰に下げた剣に手をかけた少女を、羽交い絞めにして止めるベリュトス。
「元気の良い、娘じゃな。魔王と言うのはホントじゃが、今はある男によって、か弱き人間の少女の姿にされてしまっての。元魔王と言ったところじゃ」
「大魔王となった、ウチの親父を相手に、けっこう良い勝負してたがな。ところで、お前をそんな姿にした男はどうしてる?」
「ご主人サマは、相変わらず意識を取り戻さん。もう、10日以上も眠ったままじゃ。やはり、本格的にジェネティキャリパーの真の能力を開放したのが、影響しておるのじゃろうて」
「そうでしたか。蒼き勇者の力も借りられぬとなると、サタナトスに対しどう抗うべきか」
「アイツだけならまだしも、ダグ・ア・ウォンさまや、7海将軍まで敵に回っちまうなんてよ」
海皇パーティーの残されたメンバーである、シドンとベリュトスも頭を抱える。
「だ、だったら、アタシを使ってくれ。ティルス姉さんの替わりに、働きたい!」
赤い鎧の少女が、言った。
「ダメだ。お前が加わったところで、足手まといになるだけだ」
バルガ王が、厳しく言い放つ。
「なんでだよ。そんなの、戦ってみなくちゃ解らないだろ!」
「解ったときには、あの世行きだぜ。今回の相手は、お前の想像を遥かに超えてんだ」
「イヤだ。アタシは、海皇パーティーに加えてもらいたくて、ここに来たんだ!」
「そうなのですか、ベリュトス?」
「す、すまねえ、シドン。コイツ、昔から言い出したら、利かなくってよ」
「なる程、2人は同い年の幼馴染みでしたね」
「アタシは、絶対に引き下がらないからな。海王パーティーに入って、姉さんの仇を取るんだ!」
「だったらお前、ベリュトスと戦ってみろ」
バルガ王が、提案した。
「オ、オレが、キティとですか!?」
「アタシが、ベリュトスと……」
顔を見合わせる、幼馴染みの少年と少女。
「そうだ、ベリュトス。お前は今回戦った敵を、どう感じた?」
「どうって……手も足も出なかったってのが、正直なトコっスよ」
「べ、ベリュトスが……手も足も出ないって……」
顔が青褪める、キティオン。
「どうだ、キティオン。お前の姉も、生還はできなかった。それでも、やるか?」
王の問いかけに、しばらく答えられない赤い鎧の少女。
「ああ、やるよ。アタシは、姉さんの妹なんだ」
「キティ……お前も、オレと同じなんだな」
幼馴染みの覚悟に、戦う決意をするベリュトス。
「行くよ、ベリュトス。姉さんの仇を討たずに、逃げるなんて出来ないからな!」
キティオンは、言い放った。
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